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本居宣長の「和魂」

本居宣長の「和魂」

和魂とは何か

本居宣長が提唱した「和魂」とは、日本古来の精神、感性、美意識などを包括する概念です。それは、日本人が古来より大切にしてきた自然との調和、他者への思いやり、優しさ、繊細さ、そして無常観といった要素を含んでいます。宣長は、この「和魂」こそが日本文化の根幹を成すものであり、それを再発見し、尊重することが日本人のあるべき姿であると主張しました。

和魂の背景

宣長の生きた江戸時代中期は、儒教や仏教といった外来思想が広く浸透し、日本古来の文化や価値観が軽視される傾向にありました。宣長は、このような状況に危機感を抱き、日本文化の独自性を再認識し、その価値を再評価する必要性を強く感じていました。彼は、古事記や万葉集といった古典を丹念に研究し、そこに日本人の原点を見出そうとしました。その結果、彼は「和魂」という概念を提唱し、日本文化の独自性と価値を明確に示そうとしたのです。

和魂の具体例

宣長は、「和魂」を具体的にいくつかの要素に分解して説明しています。

  1. もののあはれ: これは、物事の儚さや移ろいやすさに対する深い感動や共感の心を指します。桜の花の散り際、秋の紅葉、月の満ち欠けなど、自然の移ろいの中に美を見出し、そこに哀愁や寂しさを感じ取る感性が「もののあはれ」です。宣長は、この感性が日本人の心の奥底に深く根付いていると捉えていました。

  2. まこと: これは、偽りや虚飾のない、ありのままの心を指します。宣長は、人間本来の素直な感情や純粋な心を大切にし、それを表現することを重視しました。彼は、和歌や物語の中に描かれた人々の感情や心情に深く共感し、そこに「まこと」を見出しました。

  3. むすび: これは、人と人、人と自然との間の結びつきや絆を指します。宣長は、人間は決して孤立した存在ではなく、常に他者や自然と繋がりながら生きていると捉えていました。彼は、家族や友人、そして故郷や自然に対する愛情や感謝の気持ちを大切にし、それを和歌や物語の中に表現しました。

和魂と国学

宣長は、「和魂」の概念を提唱する中で、国学という学問を確立しました。国学は、日本古来の文化や思想を研究する学問であり、宣長はその中心人物として活躍しました。彼は、古事記や万葉集といった古典を丁寧に読み解き、そこに込められた日本人の精神や感性を明らかにしようとしました。彼の研究は、日本文化の独自性と価値を再認識させ、後世の日本思想や文学に大きな影響を与えました。

和魂の影響

宣長の「和魂」の概念は、江戸時代後期から明治時代にかけて、多くの思想家や文学者に影響を与えました。特に、国学の流れを汲む平田篤胤や賀茂真淵といった人々は、宣長の思想をさらに発展させ、日本文化の独自性と優位性を主張しました。彼らの活動は、明治維新後の国家建設にも影響を与え、日本人のアイデンティティ形成に大きな役割を果たしました。

現代における和魂

現代社会においても、宣長の「和魂」の概念は、日本人の心のあり方や生き方を考える上で重要な示唆を与えてくれます。グローバル化が進む中、私たちは多様な文化や価値観に触れる機会が増えています。しかし、そのような状況だからこそ、日本文化の独自性や価値を再認識し、それを大切にすることが重要です。宣長の「和魂」は、私たちが日本人としてのアイデンティティを確立し、豊かな文化を創造していくための指針となるでしょう。

まとめ

本居宣長の「和魂」は、日本古来の精神、感性、美意識などを包括する概念であり、日本文化の根幹を成すものです。宣長は、古典研究を通じて「和魂」を再発見し、それを尊重することが日本人のあるべき姿であると主張しました。彼の思想は、後世の日本思想や文学に大きな影響を与え、現代においても、日本人の心のあり方や生き方を考える上で重要な示唆を与えてくれます。私たちは、「和魂」の精神を大切にし、豊かな文化を創造していく必要があります。

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