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夢中と情熱が日本経済をつくった―城山三郎『野性のひとびと』
1.群雄割拠の明治経済人
三井、住友、三菱。これらの名前は誰しも聞いたことあるはずだ。これら3つの冠をもった企業は今なお日本経済を支えている。
では安田、浅野、大倉はいかがだろうか。安田は明治安田生命などかろうじて名前が残っているが、先ほどの3つと比べると数えるほどだ。大倉と浅野の冠がついた会社はぱっと出てこない。
ちなみに大倉はホテルオークラや、札幌や神戸の大倉山に名前を残している。今回は漢字の「大倉」として名前が残ってなかったり、残っていても地名だったので例からは外した。
しかし、この6つはどれも「財閥」として日本経済に貢献した一大企業グループであった。
この本ではあえて三井、住友、三菱は中心にとりあげず、これらには知名度が劣るものの負けじと日本を支えた企業人とその交友を追っている。
大倉財閥の大倉喜八郎、安田財閥の安田善次郎、日本が誇った財政家の高橋是清、浅野財閥の浅野総一郎、鈴木商店の大番頭の金子直吉、福沢諭吉の娘婿で電力界に幅を利かせた福沢桃介、電力王と呼ばれた松永安左衛門。
彼らがあらゆるところでどのようなビジネスチャンスをものにして、老いても果敢に戦っていったかを群像劇として描いている。この本の手にかかれば、1万円札の肖像になる予定の渋沢栄一も主役たちをサポートする脇役である。
本に書いてある企業や財閥、グループを調べると、いま日本で活躍している企業にどこもかしこも繋がっていることが分かる。本に没頭するだけでなく、メモも取り調べながら読むとより面白さが増すはずだ。
2.生涯「趣味は仕事」
そして安田、浅野、大倉、金子に言えるのは、とにかくハードワーカーであることだ。朝早く起きてずっと働く。浅野に至ってはどんな偉い来客を迎えるのも仕事をすべて終えた夜遅くだった。
「趣味は仕事」という人がいるそうだが、まさにそれを地でいく人々がこの本の中にいる。彼らのすごみはそれを老いて死ぬまでずっとハードワーカーであり続けたことだ。
真似をした方がいいとか、これぐらい働かないと成功できないとかそういう話をしたいわけではない。年老いても夢中になり続けられるものが彼らにとっては商売だっただけの話だ。
自分が年老いたとき、これほどまでの情熱と執念を夢中になるものに持てるのか。それをふと想像してしまう。
出てきた人物たちにより興味を持った場合は、各人の評伝や小説を探してみて読んでみることをおすすめする。例えば、金子直吉は玉岡かおる『お家さん』、高橋是清は幸田真音『天佑なり』が非常に面白かった。
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