【maruの道端怪談ストーリー】
お母さん、あの先は先細りなのに、
歩道を歩きましょう、だなんて変なの!
あら、そんな事ないわよ、とお母さん。
どうしてさ、僕は尋ねた。
しかも手書きの貼り紙だよ。
僕が尋ねると、
お母さんはくすくす笑った。
もう八月だからねえ。
お盆の時期でしょう。
あの向こうには、私たちには見えない道があるんだよ。
お盆の時期になると迎え火を焚くでしょう。その火を目指して、ご先祖さま達がやって来るのよ。
そんなわけで、八月になると、
ここら辺りの道路がね、
みんなのご先祖様たちで、
わんさかいっぱいになってしまうのよ。
ご先祖様たちの大渋滞よ。
よく、昔から、仏教では、きゅうりの馬にのってお家に帰る、茄子の牛に乗ってあの世に帰ると言われているでしょう。
あれ、ここだけの話、
今ではそんなにお役に立ってないようなのよ。
この頃のご先祖様達は、
馬も牛も乗り慣れていないから、
結構な確率で落馬するそうなのよ。
だってねえ、
考えてもご覧なさいよ。
昔の人達は馬や牛に乗っていたかもしれないけれど、今ではどれぐらいの人達が乗れるのかしら。
きっと乗馬部出身とか競馬の選手ぐらいよねえ。
もちろん、お母さんも乗ったことないわ。
そこら辺、あの世の偉い方々も考えて欲しいわよね。
きっと偉い方々も宗派とかあるから、
色んな意見があって、
お話が纏まらないのかもしれないわねえ。
そういうところは、
あの世もこちらの世界も
同じようなものなのかしらねえ。
お話を元に戻すのだけれども、
馬や牛に、もう乗るのは諦めて、
私たちと同じように歩いて帰るご先祖様もいるそうよ。
たとえ、馬や牛に乗れたとしても、
うまく操れなくて
道路にうっかり飛び出しちゃうご先祖様もいるそうよ。
そうすると走っている車にぶつかっちゃうの。
運転している人は見えないのだけれど、気配は感じるのよ。何か落ち着かなくて、何も見えていないのに人とぶつかった感覚が残るらしいのよ。
運転している人、お気の毒でしょう。
ご先祖様も亡くなっているから、
車にぶつかっても大丈夫に思うかもしれないけれど、骨折はするそうなのよ。
そうすると、早く歩けなくて、
お家に帰るのに時間がかかってしまうのよ。
きゅうりや茄子の馬や牛も、
車にぶつかるそうなんだけれど、
その瞬間に元の形に戻るから怪我はしないそうよ。
まるでシンデレラの魔法が解けたカボチャみたいね🎃
そして、歩いて帰る場合、
きゅうりやなすは馬や牛になるのだけれど、一緒に歩くんですって。
あらあら、話が逸れちゃった。
あの目印はね、
歩道はこちらですよーってお知らせしているのよ。
そのための「歩道を歩きましょう」なのよ。
分かりやすいでしょう。
ふーん。お母さん、詳しいんだねえ。
知らなかったよ。
そういうと、母はにんまりした。
あのね、去年、
おじいちゃんから聞いたのよ。
去年はきゅうりの馬にうまく乗れなくて、
落馬して車にぶつかってしまい、
うっかり骨折したから、
帰るのが遅くなってしまった。
初盆だから気が急いてしまい、
却って散々な目に遭った。
車を運転している人にも悪いことをしたって。
そこで、慌てておじいちゃんも、
運転していた人にお詫びをしたら、
びっくり仰天されて、
その人ったら、
腰を抜かしちゃったんだって💦
おじいちゃんは、気遣ったつもりが、
却って余計なことしちゃった、
って言ってたわ。
まあ、腰も抜かすわよねえ🤭
そんな訳で、
今年はきゅうりの馬さんと、
てくてく歩いて帰るから、
うっかり間違えて、
道路に飛び出さないように、
何か目印になる標識を立てておくれって、
お願いされたのよ😊
おばあちゃんとも相談したのよ。
そんなわけでね、
八月になったから、
私が注意書きを書いて貼ったのよ。
おじいちゃんに頼まれちゃったからね。
えー、あれ、お母さんが貼ったんだ!
僕も腰を抜かしちゃうところだった。
僕のおじいちゃんは去年が初盆だったんだ。おばあちゃんがおじいちゃんの帰りが遅いなあって心配してた。
夫婦だからなのかなあ、
家族だからなのかなあ、
帰って来るのが分かるんだね。
そんな事があったのかあ。
知らなかった。
そうかあ、一年に一度帰るのが楽しみなんだね。準備万端にしないとね。
それじゃあ、
きっと今年は目印があるから、
真っ直ぐ歩道を歩いて帰ってこられるね。
僕、迎えに行くよ。
きゅうりや茄子の代わりに、プラモデルのとびきりカッコいい車も用意しておくよ。車はどうかな。動くのかな。
その時、ふわっ〜、
風がそよそよしたんだ。
きっと、分かったよって、
おじいちゃんからの合図だ。
僕も感じたよ!
意識すれば、いつでもそばにいるんだね。
見守ってくれているんだ。
そう言ったら、お母さんはニコニコしていた。
あ、きゅうりや茄子も用意しておくよ。おじいちゃん以外のご先祖様もきっと帰ってくるものね。
おじいちゃん、ご先祖様たち、
待ってるよ。
皆さんのご先祖様もね。
どんとはれ