知らせ
見たことのない赤ちゃんが写っている一枚の写真。これは誰? 名前から推測すると女の子みたい。でも、誰? かわいい、と形容するべきなのか瞬間迷う。かわいい? 目を閉じているその顔は、パーツが中心に集まってまだ人間じゃないみたいに見える。人間になる前の何か。でも猿とかじゃないな。もっと人間から離れている何か。
この子はどうやらわたしの姪にあたるらしい。いつの間にか親戚が増えていた。いきなり写真でそれを知らされても。スタバの桜のんだよ、ってフラペの写真を送ってくるみたいな気軽さで、その写真は送られてきた。携帯の画面いっぱいに映っているその子の顔を見ても、正直何も感慨が湧かず、それがわたしの冷血さを計るどっきりテストみたいに思えた。はい、テストは以上です。残念ながら、あなたの血の色は赤ではありません。…じゃあ何色ですか? そうですね、ぱっと見たところ白ですね。白、ですか? 青とか紫じゃなくて? そうですね、クリーム色に近い白です。白い血。ピンクの白衣、みたいな違和感。
おめでとう、と言うべきなのだろうか。出産祝いなどを贈るべきなのだろうか。わたしの社会的な人間部分が顔をのぞかせささやく。きみもいい大人だよね? こうやって姪の存在を教えてきたのだから、知らないふりはできないと思わない?
いや、姪の誕生が決まったのは今日とか昨日とかの話じゃなくて、少なくとも半年くらい前にはあらかた決まっていたことだよな? 本当に知らせたいならその時点で知らせてもいいのでは。なんていうか、知らせてほしかった、という意味ではないんだけど…いや、姪の親となるひととの関係が健全であれば、知らせてほしかったと思うだろう。わたしはそういう点で至極一般的な考えの持ち主だから。
ともかく、今日になって突然? という点が引っ掛かる。突然? 姪の誕生を表向きの理由に、何か伝えたいことがあるのだろうか? これは深読みなのだろうか。むこう五十時間くらい取れない大き目の魚の骨みたいに違和感が残る。ごはん飲み込むときにのどが痛い。見えないのにこの存在感の主張ぶりよ。
でも、とりあえず(とりあえず?)、一般的な意味において、赤ちゃんの顔を見るのは悪くない。ほころぶ、という表現がしっくりくる。よく来たね、こんにちは。これからどんな未来が待っているかわからないけれど、応援できることはするし、できないことはしてやれないけど、概ねあなたの味方であるつもりではいる予定だよ。ごめんね、はっきりと「どんなときでも味方だよ!」って言ってやれなくて。血が白いひとの特徴なんだよ。テストに出るから覚えとき。
ああ、わたしにはできないことや持っていないものを、この子はできたり持っていたりするんだろうなあ。わたしなんてさ、と写真から目を逸らす。うまくいかないことだらけだよ、もっとちゃんとした生活がしたいのに、読みたい本は読めてないし、会いたいひとにも会えてない。指先はささくれてるし足はむくんでるし、お餅食べ過ぎて太ったし、最近ネイルやれてないし、明日早いのに眠れないし、だいいち、この子みたいに他人を微笑ませることができない。カメラに向かってポーズも取らずに、ただ自然な寝顔を提供するだけで他人を微笑ませる、ということが。
それでも、おめでとう、とこころの中だけで言ってみる。この子に何も罪はない。余計なことは考えない。ややこしくなるから。おめでとう姪。いつか会えたら、そして嫌でなかったら抱っこさせて。桃みたいなその頬っぺた触らせて。