国家総合職官庁訪問

■ はじめに

 本記事の投稿には大きく2つの目的がある.

  1.   記憶のバックアップ(自分用)

  2.   今後同じ道をたどる方への参考(主に理系の読者用)

 一度きりの人生,振り返ってばかりいても仕方ないが,Try and Error の繰り返しで物事は進展していく.ここに自らの足跡を残しておくのも悪くない.
 もしもここに足を運んでくれた読者がいたとするならば,公務員志望の就活生と推察する.就活はとかく精神が不安定になりがちだろう.それはいたって正常なことである.ただ,僭越ながら,はじめに1つだけお伝えしておきたい.決して自分の価値を他人との比較で評価してはいけない.就職先に優劣など存在しない.自分という存在を考え抜き,輝ける場所がどこなのか悩み抜いてほしい.
 私は,どんな仕事をするのが将来最も“幸せ”になれるのか何度も何度も考え抜いたが,現時点では今の内定先が最適解だと胸を張って言える.しかし小生23歳の若造ゆえ,見えている世界は狭く,局所的最適解にすぎぬであろう自覚もある.
 ともあれ,公務員就職に関しては案外ネット上に情報が少ない.こんな拙文でも誰かの役に立つかもしれないと思い,久々に筆を執る.

■ 筆者のプロフィール

◆国立理系大学院生
◆大学4年時(2020年度)に総合職試験(工学区分)を受験し最終合格
◆民間就活も並行(大手5社内定)
◆2022年度6月期官庁訪問にて,第一志望の省庁に内々定.

 もう少し詳しいほうが親切かもしれないが,個人の特定に近づきそうなのでこのあたりで留めたい.

■ 総合職試験・官庁訪問とは

 人事院所管の総合職試験(筆記や人物)及び官庁訪問のルールについては,人事院や訪問先の官庁のWEBサイトを見ればよいのだが,意外と複雑である.また,行政府が作る資料は,正確性に重きを置くためか,判読性が高いとは言えない.
 こんなことを言っておいてつらつらと文章で説明するのは憚られるので,かといって図を作るほどの体力はないので,箇条書きの説明でご容赦いただきたい.

人事院試験について――――――――――――――――――――
□合格者名簿は3年間有効
□つまり,4年で受かればB4,M1,M2と3度の訪問(面接)チャンスがある.
□総合職試験(院卒)はM2から受験可能
□大卒試験合格の院卒者と,院卒試験合格の院卒者とで,初任給が4500円程度異なる.
□初任給UPのために院卒試験の合格も追加で受けるという選択肢がある.

官庁訪問について
――――――――――――――――――――
□官庁訪問とは官庁ごとの採用選考である(面接やGD).
□人事院試験合格者にのみ官庁訪問の権利が与えられる.
□実は,官庁訪問には6月訪問と7月訪問との2種類がある.
□6月訪問では2つ,7月訪問では3つの官庁に訪問可能である.
□つまり,最大5つの官庁に応募することができる.
□ただし,6月訪問が可能なのは前年または2年前の試験の合格者のみである.

■ 就活記録

 筆者の就活について時系列順に整理する.就活体験記でよく見かける,成功者バイアスたっぷりのコメントは参考にならないと思うので,なるべくフラットな視点で記すよう努める.

◆ 大卒程度試験 – 2020.7

 教養試験,専門試験については,良くも悪くも,それぞれ高校や大学で学んできたことから出題されるだけなので,復習をしていれば点数は取れる.ただし,区分によっては高倍率なものもある(特に文系区分).また,秋にも教養区分という試験があるが,こちらも超高倍率であり,私は軽い気持ちで受けて撃沈した.
 大学生協や予備校の講座があるが,むやみに申し込むのではなく,まずは過去問を解くのがよい.合格点との距離感を測り,必要勉強量を推定すべきである.(筆者の周りでは受講している人はいなかった.)そうすれば,「1日何時間勉強すればいいですか?」といった的外れな質問は出てこないだろう.
 B4かM1の時点で合格しておくと,勉強量・メンタルの両面で就活のときに数段楽になるのでおすすめ.ただし,M2で受ける院卒者試験は非常に倍率が低く,基準点さえとってしまえば受かってしまう可能性が高いので,大卒試験で落ちても心配する必要はない.
 (参考資料:人事院「国家公務員採用総合職試験(院卒者試験)実施状況 2022年度」https://www.jinji.go.jp/saiyo/siken/sougousyoku/innsotsusya/sougou_insotsu_kekka_2022.pdf 最終閲覧日:2022年9月16日)

◆ 就職先について真剣に考え始める – 2020.8

 文系の同期の就職先が決まる頃なので,就活への意識が徐々に高まっていった.試験の最終合格をもらったことで公務員就職にやや色気が出てきて,いろんな省庁をざっくりと見始めた. 大学院進学ではなく,官庁訪問をしてしまおうかとも一瞬考えた.教授や家族とも相談した結果、学士卒就職は見送ったが,この判断は正しかった.というのも,大学院の2年間で学ぶことがあまりにも多かったからである.ぱっと思いつくものを列挙してみる.

民間就職と比較したうえでの公務員就職の良し悪しを考えることができた.
世の中の仕組みを分かり始め,視野が広がった.
・ゼミや学会などを経験し,人前で話すのに慣れた
プレゼン資料作成スキルが格段に向上した.
・時間のある学生時代にしかできないことをする機会も増えた.
・そもそも,いきなり官庁訪問にだけ行っても受からなかっただろう.(後述)

 大学院にまで行かせてくれて,就活含めいろいろと気にかけてくれた親には,返しきれないほどの恩がある.本当にありがたい.自分もそんな親になりたい.

◆ 説明会やインターンシップに参加 – 2021.5

 前述の「いきなり官庁訪問にだけ行っても受からない」については,私や知人たちの実体験に基づいた,信憑性の高い命題である.説明会やインターンシップ等のイベントに参加することは,想像以上に重要な意味を持つ.もちろん一部にはそれなしで受かる人もいるだろうが,やはり官庁訪問序盤で「エレ送 (エレベータ送迎=面接脱落)」が待ち受けているパターンが多いようだ.
 しかし,採用者視点で考えれば当然である.その他の条件が同じなら,前々から自分たちの業務に興味を持ってくれるほうに触手が伸びる.互いの理解が深いほうが入省後のギャップが小さく,すぐに退職されるリスクも低い.私の内定先の採用担当に話を聞くと,こう言っていた.「私たちの仕事に興味を持ってくれているのかは当然重視します」と.
 重ねて言及すると,省庁は,円滑に採用活動を行うために,当該年度の採用者について早めからめどを立てておきたいのである.つまり,入省可能性の高い学生は早めに評価を済ませ,採用枠としてカウントしておきたいのが採用側の心理で,それにもってこいのイベントがインターンシップや説明会である.“採用選考活動とは一切関係ありません”は,パチンコでいう緑カットインよりも信頼度が低い,と肝に銘じておきたい.

◆ 個別に省庁を訪問 - 2021.12

 私はインターンシップや説明会,座談会等にできる限り参加し,思料した結果,官庁訪問先を3つの省庁A,B,Cに絞った.興味の問題もあるが,民間就活や研究活動の都合もあった.そしてその3省庁には,12月から1月ごろに直接出向いてOB・OG・職員訪問をさせていただいた.
 Aには研究室教授の紹介,Bにはインターン受け入れ課の係長への連絡,CにはWEBサイトでの申し込み,という方法でアポを取った.
 各省庁で複数名とお話をさせていただいたが,若手職員のほかに,どの省庁でも役職の高い方(課長・審議官)が私のために話す時間を設けてくださった.(余談だが、中央省庁における課長は、民間企業における部長以上に相当すると言われている.)中には職員訪問とは名ばかりで,どう見ても面接であろう,というところもあった.直接出向いたため課室の空気感や書類の量,トイレの清潔感など,オンラインでは分からないところを知ることができたのもよかった.非常に濃密な時間であった.

◆ 民間企業で面接慣れ – 2022.2

 官庁訪問には試験を突破した人が集まって来るが,そこから面接を経てまた何分の1かに絞られる.面接の本質は民間企業でも役所でも変わらないので,場数を踏み,慣れる必要があると考えた.
 志望官庁に行けなかった場合の第2,第3…候補として,いくつかの企業を考えており,そこにも行けなかった場合の第8,第9…候補までリスクヘッジをして,後者から順に応募していった.毎回準備を念入りに行い,やれることはすべてやっていたうえで,選考は本当に「落ちるつもり」で受けていた.得られる結果が同じならば,そのほうがメンタルに良く,期待値も高い.
 まず,選考時期の早いベンチャーを受けたが,結果は1次面接落ち.マッチングアプリの初回デートでお互いに脈なしだったときの空気感だった.ここで次の企業に行くのではなく,復習が大事であると考えた.オンライン面接が主流なので,面接中PC横にスマホのボイスレコーダーを置いていた.落ちたときこそラッキーと思うようにしていた.なぜなら,その音声データから落ちた原因を必ず炙り出せるからだ.ボイスレコーダーでの振り返りには,5社受けるのに匹敵するくらいの効果はあるのではないだろうか.
 その甲斐あってか,この後選考に応募した大企業6~7社では,一度も面接に落ちることはなかった.もちろん毎回最大限の準備と振り返りを行った.15回目くらいの面接以降は,どれほど偉い人が相手でも一切緊張しなくなり,受け答えに迷いがなくなってきた.
 内定企業の中には,給与,福利厚生,残業等で文句なしの,普通の学生ならば就活を終えるであろう企業もあったが,私の志望先にはそれ以上の魅力があった.就活を終えた今,採用担当やOB,退官した方と雑談する機会があったが,みな口をそろえて「すごく良い選択をしたと思うよ」と言う.自らの仕事を誇れる人ばかりでもないこの世の中で,こういった組織はなかなか珍しいのではないかと思う.

◆ 院卒者試験 – 2022.5

 一次試験を通過し,二次前日遅くまで勉強し,寝坊した.電車とタクシーで6000円かけて駆け付けたが,5分のタイムオーバーで受付ができなかった.どこかに気の緩みがあったのだと思う.猛省した.これで毎月の給与が4500円低くなるなんて,まさに愚の骨頂である.少しでも油断していると,こうやって足元をすくわれる.

◆ 官庁訪問 – 2022.6

【6月1日:A省】

 面接が4回あった.

①    係長級1名.小さな部屋で,パーテーションを挟んで行われた.主に大学院での研究内容について聞かれた.面接というより,基本事項の確認に近く,あまり評価をされている感じは受けなかった.おそらくこの面談の結果で,面接の組み合わせや順序などを割り振っているのだろう.終了後30分もしないうちに次の案内が来た.

②    課長級3名.以前個別訪問時にお会いした方がいた.ESの内容に基づいた基本的な内容が聞かれた.私は人の名前を覚えるのが苦手だが,ノートを振り返っていたおかげでその方の名前を憶えており,当時の話題になって場が和んだりと,かなり良い感触を得た.いきなりこのクラスの面接官であることに少し驚いた.立て続けに次の面接の待機室へ案内された.

③    審議官級3名.これまでとは一転して,厳かな雰囲気だった.世界と比較した日本の官僚の働き方に対する意見を求められたり,残業などの話からストレス耐性を測られるような質問をされたりしたが,厳しい運動部時代の話などを援用してなんとか乗り切った.ノック練習を受けるような感覚で,感触は正直微妙だったが,終了後に連絡役の方に「いい感じ」である旨を伝えられ,同様に待機室へ案内された.

④    局長級1名.入室前の空間の時点でかなりグレードが高かった.秘書がいるし,来客用のソファも大きかった.面接自体は③よりもゆるい雰囲気だった.アイスブレイクのような感じで始まり,相手方の手元にあるESを参照されながら,基本的な質問をされ,笑顔ではきはきと答えていくだけだった.相変わらず緊張はしなかった.終了後にそのまま,ノートPCを持つ連絡役の方に別室に案内された.彼は移動中に画面を気にしていた.即時で判定が出て共有されるらしい.無事,後日の最終面接の通知を受けた.部屋では2日目訪問省庁のことなどを聞かれた.聞かれたといっても尋問・束縛のようなものではまったくないし,こちらの志望度も齟齬なく伝わっているので,軽い確認だった.ただし,「100%第一志望です!(本心)」という感じはあえて出さなかった.私が採用担当ならば,媚びてくる学生よりも,多少余裕のある学生のほうが魅力的に感じるからである.恋愛の駆け引きに近い.

 午前中だけで4度の面接が終わってしまい,うわさに聞く官庁訪問イメージとのギャップに驚いた.霞が関でお昼ご飯を食べ,ホテルに戻った.面接中には緊張・疲れは一切ないのだが,やはりベッドに戻るとどっと疲れが押し寄せてくる.アドレナリンが仕事をしていたのだろう.夜はジョナサンに行ってオムライスとオクラのソテーをいただいた.

【6月2日:B省】

 正直なところ,1日目A省の感触を踏まえて,B省の訪問をやめようと思っていた.というのも,もしもA省に落ちたとしたら,内定をいただいた民間企業に行こうと95%気持ちが固まっていたからだ.このあたりの細かな志望度の序列は,ほかの人には伝わりにくいかもしれない.官僚志望というよりは,A省志望だった.面接は楽なものではないので,費用対効果を考えると気が乗らず,親に相談した,人生に1度の機会だと言われ,行くことにした.これまでのイベント参加や面接対策のこともあったので,うやむやにせず,やることをやったうえでかたをつけるべきだし,親の言うとおりだった.結果,行ってよかった.
 面接が3回と,業務説明のようなものが3回あった.

①    課長補佐級3名,学生3名のグループ面接.事前に提出したESに準拠する内容で,基本的な質問が多かった.発言順が3番目ということもあったが,流石に相当数の場数を踏んでいるので,良い受け答えができた.一方で他の学生2名はかなり緊張している様子であり,言葉に詰まったり,適切な回答ができていなかったりというシーンも見受けられた(私が初期に受けた面接もそのような感じ).ただし,決して中身がないわけではなく,真面目で誠実そうな方々だったため,それで大きく評価が落ちることはないだろう.公務員志望の人は試験対策に費やす時間が長いこともあり,面接慣れしていない人が多い印象だ.こればかりは場数を重ねるしかないと思う.

②    課長級3名,学生3名のグループ面接.同じくESを深掘りするような内容が多かったが,後半はそれぞれの趣味や好きな本に関する質問があり,文章では読み取れない人柄を見られているようだった.とはいえ,想定問答でカバーできる範囲なので詰まることはなく,きっちりと受け答えができた.自分の好きなものの魅力を相手に興味を持ってもらえるように伝えるのは重要なことなのかもしれない(民間の面接でも頻出だった).面接官も興味津々でうなずいてくれて,正直なところ過去1,2くらいの感触を得た(とあるビール会社の最終が同等の感触だった).想定問答というと,作られた綺麗ごとを作業的に並べている非本質的なものと捉えられかねないが,嘘は1つもついていない.聞き手のために推敲はするが,捏造はしない.そのうえで,準備をしていると返答内容以外のところ(笑顔,声色,等)に気を遣うことができるのである.

③    採用担当との個人面談.インターンシップでお話をしたことのある方だった.「②の面接で非常に高い評価を得ており,ぜひうちで働いてほしいと思っている.」と,大変ありがたいお言葉を頂戴した.一方で,2日目訪問をしているわけで,すなわち第2志望であることは言い逃れのできない事実である.「B省で働くうえでの不安があるなら何でも聞いてほしい.」と言ってくださった.彼は本気だった.無礼を承知で,B省で働く不安,いわば悪い部分を申し上げると,一言ひとことを噛みしめるように聞いてくださった.そして弁解とも反論ともつかぬ言葉をくれた.もともと第一志望だったこともあり,多少心が揺さぶられたが,固まっていた気持ちをひっくり返せるほどのものではなかった.今思えば失礼な質問だが,「もう一度就活するとしたら,同じ選択をしますか?」と聞いた.これ以降は割愛する.

④    臨時面接.グループでの業務説明の後,自分だけ残るように伝えられた.その理由は見立て通りだった.②の面接で私を評価してくれた方が,私と直接話をしたいとのことだった.1対1でお話する機会を設けてくださった.とてつもなく忙しいスケジュールの中で,一切時間を気にすることなくお話してくださり,終わってみれば45分も経っていた.これほどまでに自分を必要としてくれる組織があるとは思っていなかった.それでもなお,気持ちは動かなかった.

 何が正解だったのかは分からない.しかし,自己責任で決断を下すときには,物事を客観的かつ長期的に捉えるのが重要である.人生の大きな岐路で,一時の感情に流されてしまうようではいけない.そういう意味でもB省の訪問は大きな経験だった.
 そしてこの日の夕方,A省の採用担当から電話があった.このあたりはインターネットに公開するにはセンシティブすぎるので,控えようと思う.人事院規則にのっとって,また,日本人特有の婉曲表現で,良い連絡をいただいた.

【6月3日午前:A省】

①    GD.学生8名程度.視野を広く持ち,自分の意見も主張しつつ,全体としてよい議論になるように意識した.

②    最終面接.事務次官級1名,その他幹部2名.できる限りの準備をし,最終面接に臨んだ.厳かな雰囲気であり,少しだけ緊張した.質問内容については1問も覚えておらず,標準的な質問だったのか,あるいはアガりすぎて気を失っていたのかだろう.面接後に別室に移動し,これまでお世話になった採用担当の方々が総出でいらっしゃった.人事院規則にのっとって,これまた,日本人特有の婉曲表現で,良い連絡をいただいた.

 6月3日(第2クール)は午前と午後で別の官庁に訪問できることになっているが,A省がこのような内容だったため,B省には断りの連絡を入れ,訪問をキャンセルした.



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