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記事一覧
短編小説『ロシアンルーレット』
冬に差し掛かったある晩。
繁栄と共に大量に建設され、衰退と共に巨大な墓標の様になった、工場と倉庫が規則正しく並ぶ、今となっては忘れ去られた工業地帯。その一角。埃っぽい倉庫に男たちはいた。
ロープで粗末な椅子に縛られたジョーマローンの香る男×1。
その前に仁王立ちする"少々"仕立ての良さそうなストライプのスーツを着た男×1。
その男の両サイドには、
揃いのオレンジのジャージを着た若い男×2。
計4名
短編小説『ビッグマック・ストライクス・アゲイン』
これは僕が20歳を迎えた日の夜、23時40分から始まる物語だ。
僕はその日を、家族や友人から祝福のメッセージを受け取り、最愛の恋人と過ごし、たらふく食べ、たらふく飲み、のんびりしたセックスをして、満たされた気持ちでベッドに潜り込んでいた。明日からまた始まる日常。非日常が徐々に溶かされ、薄くなったそれの向こうに明日が見える。非日常を失う寂しさもあるが、何と言っても20歳だ。なんだって出来るし、なん
極短編小説『水水水』
3度目の砂漠、慣れると人間はミスを犯す。
水を入れてきたはずのバッグごと忘れてきた。
オアシスなんてあるのかなと歩き回ってると、恐ろしく美しい女たちが水着で楽しそうに踊っている。
「こんにちは、水って持ってます?」
「水はないわ。でも私達がいる」
「ごめん、水が欲しいんだ」
「嘘でしょ、こんなにみんなかわいいのに?」
水がない場所で水着着てる方が嘘でしょっていう言葉を飲み込み(水がな
短編小説『バーに来た男』
私はその男から5つ程離れた席でオールドパーを飲んでいた。本当は別の目的でバーに足を運んだのだが、そんなことはどうでも良いほど、その男を観察することに夢中になっていた。長い髪を一つに束ね、この暑い中しっかりとジャケットに袖を通していた。出た頬骨に落ち窪んだ眼窩、それにつけて高い鼻が目立つ。そして私が最も惹きつけられたのはその手だった。右手の人差し指と親指、左手の薬指が欠損している。限られた指先を器用
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