ALL STAR SAAS CONFERENCE TOKYO 2019 イベントレポート #SaaSTokyo
2019年11月7日に開催された、前田ヒロさん(@djtokyo)主催の「ALL STAR SAAS CONFERENCE TOKYO 2019」のイベントレポートを書きました。「ARRゼロから100億円まで、SaaSスタートアップの成長」がテーマとなっており、大規模な組織の創り方、エンタープライズの攻略法が主なコンテンツでした。
日米で戦う$100M ARRのエンタープライズSaaS企業の作り方
スピーカー: Treasure Data 芳川さん
モデレーター: 前田さん
Treasure Data について
様々なデータをフリクションレスでつなぐデータウェアハウス。大企業では巨大なエクセルでデータ管理する傾向があり、CDP、デジタルトランスフォーメーションを推進するサービスへ転換した。
エンタープライズへ進んだ方が良いか?
PMF するために SMB からはじめるのは悪くないが、リピータビリティ(再現性)が確認された時点でエンタープライズへギアを変えていくべき。早ければ早い方が良い。
最初の10社はどのように獲得したか?
最初の10社は知り合い、近しい企業から。
一般的なマーケティングファネルは難しいため、オープンソースをファネルの一つに。大企業がオープンソースを使いはじめてリードジェネレーションにつなげていく。
優先度の決め方は?
どこにフォーカスするか重要。SMBもエンタープライズも何でもやるのは難しい。例えば、SMBに向かっているのに、セキュリティに注力しても意味がない。
エンタープライズへ行くための体制は?
ハイブリッドのビジネスモデルにしていない。ホリゾンタルでいくのかバーティカルなのか、プロダクトは同じでも営業チームをバーティカルにすることはできる。
エンジニア、バックエンドチームの体制は?
企業のカルチャーをどう求めていくか大切で、営業の会社だという理解がある。
うまくいかなかった時、どうするか
誠実さをどう見せるか大切だった。ネガティブな内容も顧客へ隠さない。長期的な信頼関係を構築していく。
なぜアメリカを選んだのか?
基盤のソフトウェアをやるならアメリカ、残念ながら日本初の基盤の会社はない。
売上の伸び方は?
0→1 の期間は2年くらい。1→10 は3,4年かかっている。10→100 は比較的に早かった。
収益が加速した要因は?
リポートアビリティが確保され、プレイブックができあがった。
良いプレイブックとは?
セールス・マーケティングのSLAを明確化することが重要。ファネルをバックキャスティングして目標値を定める。プレイブックというよりルールブックかもしれない。
アメリカの経営と日本の経営は全然違う?
はい。日本の方がロイヤリティが高いのは事実、よく働く。
ただ、CFOやVPなど日本にはいない人材がアメリカにいる。この人はというのがあれば、金額を気にせずに獲っていく。
組織的な取り組みは?
大事な人とそうでない人を明確に分けていたのは事実。
カルチャーは一緒?
価値観は同じだったと信じている。
シリコンバレーで得た知識は日本で生きる?
アメリカと日本のエンタープライズはプロセスが非常に似ている。
日本は「Deer Hunting」、アメリカは「Elephant Hunting」。
営業から離れたタイミングは?
2,3年くらい前までやっていた。
T2D3のプレッシャーは?
リピータビリティはかなり言われた。シリコンバレーのVCから投資、シリーズによって受けたサポートが全然違う。VPクラスの育成を支援するようになっていく。
調達資金の用途は?
営業だけでなくバランス良く投資してきた。人員計画はSOの分配計画ともあわせて、1.5〜2年おきにつくってきた。
ARR $100M 見てきたのは?
数年前で、リピータブルなビジネスモデルができたと感じたタイミング。
海外展開する上で、競合分析した上でやるべきかどうか?
カテゴリクリエーターになれるかどうかが重要。
ニッチなマーケットのシェアを100%にすることを目指していく。
アメリカからの要望で日本からこない要望は?
地域格差は多少あるが、大体一緒。
ブランチをつくるよりトランクを頑張る。製品を分岐してしまうのはあまり良くない。
両方のマーケットで戦うデメリットは?
特になし。持ちつ持たれつでやってきた。
メッセージは?
SaaSは突き詰めれば突き詰めるほどサイエンスになってくる。真面目でロジカルで勉強熱心であれば成功しやすい。
エンタープライズSaaSを実現するEnablementの作り方
スピーカー: R-Square & Company 山下さん
モデレーター: 前田さん
イネーブルメントとは
成果を出す営業社員を、継続的に輩出する仕組み。
「成果」と「育成」のGap構造
各部門で個別最適の施策展開になっており、必ずしも一貫したプログラムになっていない。「成果」を起点とした育成の仕組みづくりが必要。2:6:2の上の2のナレッジを6に展開し6を底上げしていく。
イネーブルメント取り組みのテーマ
・スタートアップは「オンボーディング」がテーマ
中途社員の立上げ、既にある形を高速でインストールする。
・エンタープライズは「営業スタイル変革」がテーマ
複数プロダクト(顧客の変革)、営業人員ごとの売り方など、営業スタイルが複雑化しやすい。
エンタープライズにおける検討のスタート地点
①営業機能を「案件創出(SDR)」と「提案受注活動(セールス)」で分ける。
→全部ができるスーパーマンを求めていないか。
②「顧客の意思決定の流れ」に沿って「営業フェーズ」を見直す。
→ハイパフォーマーとそうでない人との数値的な差異を見てテコ入れ。
③営業実績データを元に、育成テーマを決めて1,2個の実践プログラムを作る。
→根拠を持って実践的なプログラムを提供できているか。
イネーブルメントの人員配分の目安
営業人員100名につき1人くらい目安。1%〜3%ほど。
配置できない場合は、営業企画やマネージャーが担う。
スタートアップでよくある課題
・顧客の経営課題との結びつけができないまま売ってしまう。
・ビジョン・セリングを学ぶ機会がなく売ってしまう。
・育成にかかる時間が長い。スタートアップのオンボーディングで3〜4か月。エンタープライズなら1年以上かかる。
イネーブルメントチームのKPI
「スタートアップ」
営業の成果をそのまま指標に。
「エンタープライズ」
営業生産性をみる指標にシフト。
イネーブルメントの採用要件
・マインド(育成好き、泥くさい)
・スキル(体系化、合意形成)
・知識(営業に土地勘、自社製品理解)
→ 営業経験はさほど必要ではない。
イネーブルメント失敗回避のTips
1. 経営層がイネーブルメントの意義を周知
2. 兼任でも良いので担当者をアサインすること
3. SFA(営業データ)をフル活用
4. 実践コンテンツを提供(一般論不要)
5. イネーブルメント取り組み成果を社内発信
IPO後も高成長を続けるSaaSの基盤
スピーカー: マネーフォワード 辻さん
モデレーター: 前田さん
BtoBを始めたきっかけは?
MEのユーザーから確定申告を楽にしてほしいといった要望があったため。
新プロダクトの判断基準は?
創業3,4年くらいは「つくりたい」からやっていた。
創業当時との違いはある?
当然ある。ただ、今でも定性を大事にしている。他の会社さんがやらないことをやっていく。
文化は?
創業からMVVはブレずにやってきている。
MVVの決め方は?
ディスカッションの過程は時間をかけるべき。経営陣の価値観の共有が鍵。
上場後の離職はしかたない?
うちに限ってはないと考えていたけど、そんなことはなかった。「辻さんちょっといいですか」というのニガテで(笑。
社外取締役の選び方は?
経営者として意思決定している人、自分より先行っている人、体系化できて言語化できる人。
サイエンスによってきている?
アートからサイエンスになって、アートに戻ると考えている。その先にはエモーショナルしかない。「心を動かすクラウド」を目指している。
価格改定の話、値上げの頻度は?
実は1回しかしていない。バラ売りしていた中、1パッケージの売り上げが好調だったため改定を検討。6年前よりも提供価値が絶対に上がっているので、値段を上げることに抵抗はなかった。値付けは経営、経営者が全体の収益としてどうやるべきか考えること。
新しいプランへスムーズに移行する方法は?
全部署が対応が必要。背景や目的をしっかり説明する必要がある。
猶予期間は?
3,4ヶ月。顧客への説明を繰り返すこと。複数回メールを送るが、怒る人ほどメールは見ていない。
値段を変えて想定外のことは?
複数プロダクトを使うと、こんなによくなるのか、というサプライズ。また、提供価値に対する価格が低かったと確信した。
開発側の反省は?
個人向けと法人向けのプラットフォームをわけるべきだった。マイクロサービス化を早めにすればよかった。
過去に戻ってやり直せるとしたら?
The Model を徹底的にやっておけばよかった。ビジョンの共感を前提に採用する。
上場へ向けて
上場したら3ヶ月ごとに発表するので、動きづらくなる。上場した後に出せる球を仕込んでおくこと。上場後1,2年先を見据えた計画を立てておく。
上場準備にあたり、毎週予実管理することにしていた。手堅い数字(外向け)と、目標の数字(内向け)を両方持っておく。
SaaSの一般的な理解度深めて欲しいところは?
金融機関とSaaSのKPIで話をしたい。ユニットエコノミクスの投資判断の理解。
SaaS企業の急成長を支える最初の100人
スピーカー: オクト 稲田さん
スピーカー: SmartHR 宮田さん
モデレーター: 前田さん
最初の10人の基準は?
・宮田さん
特に基準はなく、その時々で足りない人材を集めていた。友人、飲み友達を巻き込んだ。
・稲田さん
ほとんど友人だった。今でも会社の中核となっている。
この頃の社長の役割は?
・宮田さん
プロダクトは任せて、セールス&マーケに注力していた。
・稲田さん
日中は営業に出て、夜や休日はPdMをやっていた。
最初のCSは?
・宮田さん
前田さんからのアドバイスを受けて、元々の友人で技術寄りのWebディレクターを採用した(4,5人目)。
・稲田さん
オンライン英会話のCSをやっていた人を採用した。CSというよりオンボーディングと顧客満足度向上が目的。
営業は?
・宮田さん
Tech Crunch東京で優勝後、100件くらいのリードが一気に入ってきて猫の手も借りたい状態に。まだ無名の頃に、ものすごい熱量の文章をぶつけてきた人を採用。
・稲田さん
人材系の営業・企画責任者を採用。500人くらいの部下を見ていた人で、キャッチアップ能力と行動力を重視。
採用の順番、変えられるとすれば?
・宮田さん
3,4人くらいの段階で人事(採用)を獲るべきだった。
・稲田さん
同じく人事(採用)。社長がやっていると、夜や休日になってしまうため。
最初の25人、マーケに差があり
・宮田さん
オウンドメディア、オンライン広告、オフライン(展示会)といった役割ごとに採用。
・稲田さん
建築業界では空中戦が効きにくく、営業がマーケを兼務している状態。
この頃の社長の役割は?
・宮田さん
CEO/CFO的な仕事がメイン。
・稲田さん
営業やPdMからは離れて資金調達まわり。
整理したものは?
・宮田さん
9名の頃から評価制度を検討し、17名の頃スタート。
創業から給与は一律35万円とかだった。我慢できるのは1年から1年半、昇給して上げてよかった。全員と1on1していた。
・稲田さん
評価制度はなかったけれど、こまめに昇給させていた。全員と1on1していた。
最初の50人、変わったことは?
・宮田さん
この頃からARRの計算がサイエンスに。小さなチームをつくりアップセルプロダクトをつくっていた。 あまりチームを固定させずに1年くらいでぐるぐるさせる、飽きさせない。1on1は入社3,4ヶ月までに。
・稲田さん
営業はほぼフィールドセールスの人員で、オンボーディングも担当していた。営業チームは階層的な組織に。4,5人に1人マネジャーを置き、その上に営業部長。
中途で入ったミドルが会社のカルチャーに合わずに苦しんだ時代。
最初の100人、変わったことは?
・宮田さん
マーケは多いがデザイナー数名も含まれている。運用広告2人、オウンドメディア2人、Marketo専属。プロダクトは「電卓を作るイメージ」から「パソコン作るイメージ」へ変化。PdMを4,5名採用し、エンジニアはプロジェクトごとにチーム分けしていた。
・稲田さん
営業が最も多い。建築業界は、都道府県単位で経済圏・コミュニティが存在する。ランチェスターで攻略していく。営業がマーケの脳を持ち、オンボーディングまで支援する。
苦労した点は?
・宮田さん
横の伝達が凄く難しくなってきた。CTOやCOOが頑張ってくれて解消した。
・稲田さん
PdMがいないので苦労している。5,6名置きたい。
300人へ向けて課題は?
・宮田さん
新入社員へのオンボーディング 、チームによって差があること。また、部署ごとに評価制度や人事制度を分けていく必要性を感じている。
・稲田さん
エンジニアが増えてITによってきているため、組織全体の業界理解度が落ちてきている。バランスをとっていきたい。
効果的なエンタープライズセールス
スピーカー: セールスフォース 伊藤さん
モデレーター: セールスフォース・ベンチャーズ 湊さん
なぜエンタープライズが大切か?
米国SaaS上場企業の95%はエンタープライズをターゲットにしている。ユニコーンを目指すにはエンタープライズが鍵となる。
エンタープライズセールスの魅力
・高単価
・解約率が低い
・既存契約からのの追加契約も多い
エンタープライズセールスの悩み
・意思決定までに時間がかかる
・SMBと同じ手が通用しない
・キーマンへのリーチ、リード獲得が難しい
・カスタマイズ要望が多く大変
The Model for Enterprise
エンタープライズの場合、マーケティングから始まるThe Modelは違和感がある。各種関連部門が一緒に同じ地図を描きながらアプローチする「チームセリング」がポイント。ABMが効果的。
ABMに必要な構成要素「ターゲティング×インサイト」
「ターゲティング」
・業種
・事例
・規模
・地域
・役職
「インサイト」
・中期経営計画書
・中期経営ビジョン
・社長の言葉
・他社事例ページ
・フレームワークを用いた分析
ターゲティング「営業リソースの最適配分」
営業日は220日程度。しっかりとしたターゲティング・負荷分散が勝敗を分ける。
Tier1:5% フィールドセールスが積極的にアプローチ
Tier2:20% インサイドセールスがアウトバウンドで新規開拓
Tier3:70% 反響があったら活動する
Tier4:5% やらない=やれない先を決める
アカウントプランの全体像
①企業調査、企業理解
②提案内容検討
③個人ターゲティング
①企業調査、企業理解
自社製品ありきで考えない、フレームワークを使って整理する。
「環境認識」
市場と競合の状況を踏まえたターゲット企業の位置付け。
3C(+1C)=顧客の顧客、最終的な顧客は誰か?
「経営戦略」
成長に向けた重要度の高い事業や取り組み。
・有価証券報告書
→「対処すべき課題」から逆説的に仮説を立てて提案。
→それをもとに顧客に聞きにいき、ブラッシュアップしていく。
・中期経営計画書
・中期経営ビジョン
・社長の言葉
・他社事例ページ
②提案内容の検討
・顧客にとって重要度が高く、自社製品で解決可能なテーマに絞る。
・自社製品でなければならない理由を入れる。
・仮説立てて何度もヒアリングを行い解像度を上げる。
③個人ターゲティング
LOBを起点にチャンピオンを探す。業務理解が深く、チャンピオンになりやすいLOB/事業部長クラスへアプローチをかける。
「チャンピョンの定義」
自社で意思決定が出来、社内でも影響力と推進力がある方。決済者にも直接働きかけられる。
エグゼキューション(実行)
事例:手紙でのアプローチ
アポイントが取れる確率が通常の20倍ほど。すでにアタックしているケースでは、役員人事で変わったタイミングでアプローチすると効果的。
手紙の体裁「どうすれば手紙を開封してもらえるか」
・高級感のある和紙の封筒、便箋を利用
・宛名は印刷ではなく筆ペンの手書き
手紙の文面「いかに会いたいと思ってもらえるか」
・「なぜ今、なぜあなたに」を徹底
・顧客の経営戦略上、なぜ今自社製品が必要なのかを2時間かけて推敲
Executive Coverage
ターゲット企業の組織の誰と接点が有るかを明らかにする。
エンタープライズ特有の情シスの壁がある。LOBとのコンセンサスが取れた上で動くこと。
まとめ
「戦略(Strategy)」
・対象セグメントを絞り、誰がどこまで担当するか決定する。
・アカウントプランを作成し、チームプレイが出来る共通の地図を作る。
「実行(Execution)」
・顧客を深く知り、顧客を取り巻く環境を理解した上で、Executive Coverage を意識した活動を実施。
・Executive Coverage 状況をチームで把握し、チャンピョンを探す。
SaaSのトレンドとその未来を語る
スピーカー: 湊さん
スピーカー: 前田さん
USA SaaS
時価総額を足すと 80 兆円。
Slackのようにプロダクトドリブンの営業効率の良いSaaSが出てきている。2018年の時点でSaaSのユニコーン55社。
Japan SaaS
日本SaaS上場企業のマルチプル9.7倍。1社あたりの資金調達金額があがってきている。
2019年 SaaSトレンド
・EX
・SaaS for SaaS
・Vertical SaaS
・Cashless
2020 SaaSトレンド
・xSaaS
・Product-Led Growth
・CRM 2.0
・Security
SaaS Advice 2020
・カスタマーサクセスを強調
→ The Model必須、データサイエンス機能の強化
・強いビジョンを持つ事
→ SaaSならビジョンセリング
・不景気への備え
→ NRR100%↑、エンプラ戦略、Runway18〜24ヶ月
・それでもSaaSの勢いは止まらない
→ SaaSはまだ世界ソフトウェア市場の20%しかない