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社会人大学院生のためのMBA(修士号)・PhD(博士号)取得後の出口戦略 〜卒業後の最適なキャリアプランはどのようなものか〜
社会人大学院生のためのMBA(修士号)・PhD(博士号)取得後の出口戦略
社会人大学院生にとって、MBA(Master of Business Administration)とPhD(Doctor of Philosophy)はいずれも大きなキャリアチャンスをもたらす学位である。MBAは経営学修士とも呼ばれ、経営戦略・マーケティング・会計・組織論などビジネスに関わる幅広い科目を体系的に学ぶ。経営や管理の観点からリーダーシップを育成する目的が強く、世界中で経営者や管理職を目指す人々に広く取得されている学位である。
一方、PhDは博士号とも呼ばれ、各学問分野で独自の研究成果を出し、それを学位審査によって正式に認められた者に授与される。最先端の研究を通じて高度専門知識を獲得するため、アカデミア(大学・研究機関)だけでなく、近年は民間企業の研究開発職や高度専門職としての価値が高まっている。日本の企業環境でもイノベーションやR&D(研究開発)を強化する動きが顕著になった結果、博士人材への需要が高まるトレンドが見られる。
社会人がこれらの学位を取得する主な理由は、大きく分けて2つある。第一に、働きながら自分のキャリアをより高いレベルに引き上げるためである。MBAの場合は管理職・リーダーポジションへの抜擢、PhDの場合は研究開発や高度専門職への就職・転職などが想定される。第二に、将来の独立や起業、社会課題への挑戦に備えて、広範なビジネス知識あるいは高度な専門技術を身に付けるためである。いずれも労力と費用がかかるが、その分得られるリターンも大きく、人生の大きな投資といえる。
【関連図書】
MBA取得者の主なキャリアパスと市場動向
MBA取得者の主なキャリアパス
MBA取得後の進路は実に幅広い。企業内での昇進・管理職登用、金融機関やコンサルファームへの転職、起業、新規事業開発、官公庁やNPOでのマネジメントなど、多様な選択肢が用意されている。その中でも以下の例は代表的なものだ。
企業内での昇進
ある国内MBAの調査では、卒業生の95%が「キャリア面で良い変化を得た」と回答している。具体的には、在学中に転職し年収が3倍になった例や、短期間でマネージャーへ昇格した例が報告されている。
コンサル業界・外資系企業への転職
戦略系コンサル(マッキンゼー、BCGなど)や投資銀行では、MBAホルダーを幹部候補として扱う傾向が高い。国内大手企業でも、経営企画や事業開発部門でMBA取得者を求める動きが加速している。
起業や新規事業立ち上げ
MBAプログラムではビジネスプラン作成やネットワーキングを通じて、起業の実践的準備ができる。在学中の仲間と組んでスタートアップを起こすケースも増えている。
官公庁・NPOのマネジメント
グローバルに社会問題を解決するNPOや国連機関、あるいは自治体プロジェクトで、経営的視点を持つ人材としてMBAホルダーが重宝されている。
企業の評価と給与動向
MBA取得者を採用する企業は、外資系・IT・コンサルのみならず伝統的な大手メーカーや商社にも広がっている。企業評価については、「MBAホルダーはビジネスフレームワークを理解しており、戦略立案やプロジェクト推進で高いパフォーマンスを期待できる」という声がある一方、「日本企業内ではMBAよりも現場経験を重視する」という温度差があるのも事実である。
とはいえ、MBA取得者の平均年収が入学前より1.75倍に増加したという調査結果もあり、総じて給与面の上昇傾向が強い。特に外資系企業やコンサルに転職する人は初年度から大幅な年収アップが見込まれ、年収3倍という数字は決して珍しくない。昇進スピードも速く、「MBA取得後に数年で管理職につく例が多い」というデータがある。
PhD取得者の主なキャリアパスと市場動向
PhD取得者の主なキャリアパス
博士号(PhD)を取得した社会人の進路も、かつては大学教員か研究所の研究職というイメージが強かったが、最近は大きく変化しつつある。主な選択肢としては下記が挙げられる。
アカデミアへの進路(大学教員・研究所)
令和4年度のデータでは、博士課程修了者の約16%が大学教員として就職している。ポストドクターを経由するケースが多いが、テニュアポスト(終身雇用的ポジション)を得るためには激しい競争を勝ち抜く必要がある。
民間企業の研究開発職・コンサル
約34%が民間や公的機関に就職しており、特に化学・素材メーカー、製薬企業、電機メーカーなどで博士号取得者へのニーズが高い。実際に企業の研究プロジェクトで博士の専門知識が事業に大きく貢献したケースは全体の55.8%を占めるという調査もある。
起業・スタートアップ
大学や企業での研究成果をもとに創業し、バイオテクノロジーやAI分野などでベンチャーを興す博士も増加している。社会人として培った業界知識と学術的専門性の掛け合わせが強みとなる。
官公庁・NPO・シンクタンク
科学技術政策に携わる中央省庁やNPO、国際機関で、研究開発マネジメントや専門アドバイザリーを行う道もある。博士としての分析力・課題解決力を政策立案に活かす事例が増えている。
企業での需要と給与動向
過去には「博士は年齢が高く使いにくい」などの偏見もあったが、近年では「博士人材の採用実績が期待以上だった」と回答する企業が76.6%にのぼるというデータがある。さらに、「今後も博士を積極採用したい」と考える企業は過半数(53.3%)に達しており、民間企業での需要は拡大基調にある。
企業に常勤として採用されれば、専門知識を武器にプロジェクトリーダーなど高いポジションへ早期昇格する可能性が高く、長期的には安定と高報酬を得ている博士も多い。5〜7年後には約7割が常勤職に移行するとされており、その時点から研究開発リーダーや専門役として活躍している事例も増えている。
キャリアの安定性と満足度 〜 MBAとPhDの比較
MBA取得者の安定性・満足度
MBAホルダーは転職市場での評価が高く、外資系や成長企業などでは幹部候補としてのポジションを得やすい。万一、現在の職場が合わなくても、培った経営知識やネットワークを活かして新しい機会を探しやすいという特徴がある。グロービス経営大学院の調査では、卒業生の約95%が何らかの昇進・昇給やキャリアアップに成功しており、1.75倍に年収が増加したとの報告もある。こうした「市場価値の高さ」がキャリアの安定感と直結している。
ただし、激務のポジション(コンサルティング、投資銀行など)で働くケースでは、長時間労働や短いプロジェクトサイクルに追われることも多い。ワークライフバランスは人によって大きく異なり、「ハードな働き方だが高い報酬とやりがいを得られる」側面が強い。このようにMBA取得者は短期的に収入やポジションを上げやすい一方、仕事量や責任の重さとも隣り合わせである。
PhD取得者の安定性・満足度
PhDホルダーは、取得直後こそポストドクや契約社員としてやや不安定なスタートになることが珍しくない。しかし5〜7年ほど経過すると常勤のポジションに移行しやすく、一旦安定雇用を得ると「博士の専門知識は替えがきかない」という評価を得やすいため、高いジョブセキュリティを享受できる。
企業に就職する博士の多くは、「自分の研究成果や専門技術が事業や社会に役立つ」という充実感を得ている。たとえば製薬企業の研究者であれば新薬開発に貢献し、IT企業のデータサイエンティストであれば最新のAI技術を用いて事業価値を創出する。こうした「専門性を存分に発揮できる環境」を得られれば、満足度が高まり、長期にわたるキャリアの安定が見込める。大学に残る場合はテニュア獲得まで不安定さが続くが、一度テニュアになれば研究に専念できる安定した環境を得られる。
成功要因とリスク、そして最適なキャリア戦略
MBA取得者の成功要因とリスク
MBAで成功する人材は、在学中から学んだフレームワークを積極的に実務へ応用し、「具体的成果」を上げることに注力する。特に人脈構築はMBAプログラムの大きな魅力であり、在学中に得たネットワークが転職・起業・ビジネス連携につながるケースは多い。
一方、投資コストが高い点や、企業によってMBAを評価しない向きもあるのはリスクである。国内でも数百万円、海外トップスクールなら総額で数千万円かかるケースがあり、費用回収の計画を誤れば「MBAを取ったのに期待ほど昇給しなかった」という事態になりかねない。また、専門性を捨てて経営に振り切りすぎると「どっちつかず」になり、十分に市場価値を発揮できない恐れがある。このため、自分のバックグラウンドとMBAスキルの掛け算を意識し、強みを明確に打ち出すことが大切である。
PhD取得者の成功要因とリスク
博士号取得者がキャリアで成功するには、自分の専門領域を深めるだけでなく、他分野とのコミュニケーション力やビジネス的発想を養うことがカギとなる。研究を社会実装するには、企業や組織のニーズや収益構造を理解できる視点が必要になるからだ。
リスクとしては、博士課程に費やす年数と機会費用、さらに「博士を取得しても年齢が上がる分、就職市場で不利ではないか」という懸念がある。ただし近年は博士人材の採用に意欲的な企業が増えており、76.6%の企業が「博士採用は期待以上・おおむね期待通り」と回答している調査もある。また専門がニッチすぎる場合は応募できる企業が限られるリスクもあるため、在学中から産業界の動向やニーズをリサーチし、インターンや共同研究に積極参加するなど早めの準備が重要だ。
MBAはビジネス全般の知識と人脈を得て、企業や官公庁、NPOなど幅広い領域で即戦力の管理職候補を目指せる
PhDは高度専門性を武器に研究開発からコンサル、政策領域まで活躍の幅が広がり、中長期的に安定と高い満足度を得やすい
費用対効果や在学期間のマネジメント、卒業後の具体的なキャリア設計が重要であり、学位取得はゴールではなく手段である
まとめ
MBAとPhDはいずれも大きな時間と費用を要する学位だが、取得後のキャリアパスには魅力と可能性が広がっている。MBAホルダーは企業の管理職登用やコンサル・金融への転職、起業などで短期的に報酬やポジションを上げやすい。一方でPhDホルダーは研究開発など高度専門性が必要とされる場面でその能力が高く評価され、企業や公共セクターで長期にわたり安定的なキャリアを築くケースが増えている。
どちらを選ぶか、あるいは両方を検討するかは、自分自身の興味分野や適性、年齢や経済的リスク許容度によって変わる。大切なのは「学位を取得して終わり」ではなく、その学びをどうやって実務に活かし、自分の強みやビジョンにつなげるかである。みなさまのキャリア形成に少しでもお役に立てれば幸いです。
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