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アトランティス崩壊前夜

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かつて地球上に存在したと言われる超古代都市アトランティス。コアクリスタルの回収により沈み行く運命の一日を描いたシリーズ。
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2020年1月の記事一覧

アトランティス幻視 崩壊前夜12

青鷲の出発を見送ると
天狼星は黒曜とともに
風の神殿を後にする

神殿から小道を抜け街に差し掛かると
夏至祭の準備が進められていた

強い夏の日差しに照らされて
人々の笑顔が輝いている

日々は変わらず明日も続くことを
欠片も疑うことのない
曇りの無い笑顔があちこちで咲いている

その景色に足を止める天狼星の痛みを察し
黒曜は前を見つめながら小さく言う

隠し身の石を使います
主上におかれましては

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アトランティス幻視 崩壊前夜11

石たちが落ち着くと
黒曜は膝を折り
並べた石を拾いながら
天狼星の表情を確認する

顔色がすっきりと明るい
額の石の波長も
格段によくなった

黒曜は心から安堵する

天狼星と黒曜は
アトランティス創始の時より
ともにこの街を支え守り
育ててきた同志であり
かけがえのない友人である

いつも冷静で穏やかな天狼星は
黒曜からみても最高の指導者であり
彼の青ざめ動揺する姿を見ることになるとは
夢にも思

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アトランティス幻視 崩壊前夜10

花の主を見送り
風の館に沈黙が降りる

いつの間にか太陽は正午を過ぎ
少しずつ西に傾き始めていた

主上
どうぞ暫し休息を

静かな声音は石の神殿の長
黒曜である

漆黒のまっすぐな長い髪
抜けるような白い肌
瞳は濃い紫色に輝いている

そして眉間に小指の先ほどの
これもまた深い紫色の石

石の神殿の主の印として
朱斗と同じくアトランティス創生の祖たる
亜奴比須(アヌビス)より授けられ
この星に存

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アトランティス幻視 崩壊前夜9

天狼星は走り去る二人を
しばらく目で追っていたが
視線を戻した

花依

花の主はまっすぐ天狼星を見つめる

今回の夏至祭のグリッドを変更する
全ての神殿の祝のエネルギーを
センターツリーへ向かわせてくれ

花依が頷くのを見て
天狼星は更に言葉を継ぐ

あと残り一日
なんとしてもセンターツリーを生かしたい

花依は思わず息を飲む
そしてはらはらと落涙する

あの大きな美しい中央樹の
命の期限が切ら

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アトランティス幻視 崩壊前夜8 会議

アトランティスはかつて
自由に空を行き渡る浮き島として誕生し
地球上のどこであれ
瞬時に移動することができる
高度なテクノロジーを誇っていた

その後時を経て
浮き島を制御する技術と
必要なエネルギーは
徐々に失われていった

そして星の動きに沿いながら
動いてきた浮き島は
あるときから浮力を失い
海の上に浮かぶ島となり
朱斗の判断で
現在の位置に固定されてからは
移動することなく今日に至っていた

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アトランティス幻視 崩壊前夜7 花依の到着

花依が風の神殿に到着すると
既に全ての神殿の主が揃い
花依の到着を待っていた

花束を抱いたままの花依に
天狼星は笑いかける

突然呼んですまない
花を摘みに出ていたのだね
せっかくの美しい花だ
私が預かろう

花依は小さく頷いて視線を伏せる
花を抱え直すと天狼星の立つ祭壇へ
静かに歩み寄る

花依が花を差し出すと
天狼星はふわりと笑う

これは美しいな
さすが花の主の摘む花よ

白い頬が優しく緩

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アトランティス幻視 崩壊前夜6 花の主

街外れの森から足早に出てきたのは
花の神殿の主である

薄桃色の巻き毛は華やかに背を流れ
同じ薄桃色の羽織の裾は優しい緑

腕のなかには色とりどりの花を抱え
軽やかな足取りで先を目指す

夏至祭に相応しいグリッドを作りたい
花は瑞々しく草は青く

頭のなかではもう
最適な草花の配置を考えている

花のグリッドを配置したら
石の神殿からクリスタルを運ばなければ

忙しく考えながら
街の中心部から放射

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アトランティス幻視 崩壊前夜5 祭の準備

風の神殿では
夏至祭の準備が進められていた

夏至祭はこの街における
重要な祭祀のひとつであり
各神殿では
それぞれの役割に基づき
新鮮なハーブや
色とりどりの宝石を配置し
エネルギーグリッドを作り上げていく

神殿の庭を飾るため
忙しく立ち動いていた若い神官たちは
隼に支えられ歩いてきた
白いローブが誰であるかを知るや
一斉に駆け寄ってきた

星読みさま

星読みさま
どうなされましたか

神官

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アトランティス幻視 崩壊前夜4 風の神官 隼

背を焼く日差しがふいに翳る
肩にかかる薄物の感触と共に
聞き覚えの在る声が
思いがけず近くで聞こえた

星読みさま
如何されましたか

日除けの布を差し掛けながら
気遣わしげな様子で覗き込むのは
薄い銀の地に
裾のみ濃い青に染められた
風の神殿の式服を纏った
若い神官だった

アトランティスには
五つの神殿が存在する

星花水風石

それぞれに違った役割があり
この街が地球と調和して存在を続けるた

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アトランティス幻視 崩壊前夜3 神と呼ばれるもの

じりじりと太陽が昇っていく

街の中心を繋ぐ水路を抜け
神殿へ向かう小道を曲がると
ふいに天狼星の視界が歪み
意識がふわりと掬われた

浮き上がった意識体の
視界がすべて青い光に染まる

天狼星の意識は刹那の間に
中央樹の地下深く
埋め込まれたコアクリスタルの内側
神の在る場へと移されていた

コアクリスタルとは
この街の創造神として
すべての生物にエネルギーを送る
朱斗(トト)神の棲みかであると

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アトランティス幻視 崩壊前夜2 菫

朝陽が昇りはじめる
夏の日差しは強く地面を焼き
気温はじりじりと上がり始める

元来青いドームの中は環境恒常性機能により
いかなる場合も生物にとって快適な環境を
保っている

はずだった

異変は少しずつ
確実に進んでいた

守られたはずのドーム内でも
肌に感じる日差しの暑さが日々増している

もはや気のせいではすませられないほどに
外気の変化の影響がドームのなかにも及んでいた

巨大な中央樹から

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アトランティス幻視 崩壊前夜

朝靄にけぶる街の外れ
常緑樹にかこまれた神殿の奥
限られたものしか行き来しない細道を
足早に進むひとつの影があった

白銀の髪は背中に流れ
薄物の裾をはためかせる白い背は
鬱蒼と木々の重なりあう小道の奥
大木の幹の後ろに隠された扉に手をかけ
力を込めて押しあける

扉を潜った刹那
ぐにゃりと地場が歪み
視界が青く染まりゆらめくなか
海王星、と
薄暗い広間の奥に向かい音を投げると
先にくつくつとくぐ

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