アトランティス幻視 崩壊前夜

朝靄にけぶる街の外れ
常緑樹にかこまれた神殿の奥
限られたものしか行き来しない細道を
足早に進むひとつの影があった

白銀の髪は背中に流れ
薄物の裾をはためかせる白い背は
鬱蒼と木々の重なりあう小道の奥
大木の幹の後ろに隠された扉に手をかけ
力を込めて押しあける

扉を潜った刹那
ぐにゃりと地場が歪み
視界が青く染まりゆらめくなか
海王星、と
薄暗い広間の奥に向かい音を投げると
先にくつくつとくぐもったような
圧し殺した笑い声が響いてきた

これは珍しいことがあるものだね
久しいね、天狼星

豪奢な布張りのソファにふわりと影が落ち
ゆらゆらと形を表してゆく

まず浮かび上がるのは豊かに波打つ青
くしゃりと癖のある青色の髪
同じく深い青の瞳は楽しくてたまらないというように
薄い唇の端をあげて天狼星を見つめている

あなたがここにくるということは
なにか問題があったのだろうね?

知らぬことなどない、あろうはずもないのに
楽しげに問うてくる青い瞳に
天狼星はきつい一瞥を返す

コアクリスタルが回収になる
というのは本当なのか

強い問いかけに
海王星は軽く肩を竦めてみせる

そうだね
僕もそう聞いているよ
昼の一番長い日に
獅子座が降りてくるんだよ

にこにこと語っていた海王星は
さらに眉を険しくする天狼星の様子をみて
青い目を冷たく変えて

あの狒狒に
何を吹き込まれたのか知らないけど
ここに肩入れしすぎない方がいい

あなたは蟹座に戻るのだから
時を違えないことだよ

押し黙ったままの天狼星の様子に
冷えた瞳のまま海王星が小さく呟く

順番を間違えないことだよ
彼らは所詮我らの複製でしかない

言葉の途中で
天狼星は立ち上がり
海王星に背を向けると
扉へと歩みを進めた

その頑なな背中に海王星は軽く肩をすくめ
再び軽い笑みを浮かべた

まあ、健闘を祈るよ
軽い言葉と共にその姿は
きらきらと空気に溶け始め
扉が閉まると同時に常闇へと消えた

裁定は下った
夏至の正午
コアクリスタルは回収される

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