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【オススメ小説6】沈鬱と慟哭の傑作ミステリー『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』
こんにちは、名雪七湯です。本紹介第6回となる今回はバッドエンドとして名高い『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』を紹介させて頂きます。
1、本情報、あらすじ
『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』桜庭一樹 2007 富士見書房(2004年に富士見ミステリー文庫より発刊され、2007年に富士見書房で単行本として刊行、現在は絶版し角川文庫より発売中)。
バッドエンドのミステリーの傑作であり、桜庭一樹さんの代表作として名を馳せる、『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』。桜庭一樹さん、2008年に『私の男』で直木賞を受賞し、『GOSICK-ゴシック-』シリーズを手掛ける。他著作『赤×ピンク』、『赤朽葉家の伝説』、『推定少女』など多数。
以下、あらすじになります。
中学二年生の山田なぎさは引きこもりの兄、一日中働く母と暮らしながら実弾(すぐに役に立つもの)を求め、将来の夢は自衛隊員。砂糖菓子みたいな身にならないものはいらない。そんな彼女の日常をがらっと変えたのは、「海野藻屑」の転校だった。嘘みたいな名前の彼女。そして「ぼくは人魚だ」と言い出すはちゃめちゃな嘘。風変わりな彼女に付きまとわれながら、なぎさは本当に大切なものを考えるようになり……。
2、内容について
本誌はある新聞の記事から始まります。
記事に述べられているのは、「海野藻屑の死」。
そして、ページを捲ると本編が始まり、海野藻屑が転校して来るシーン。
読者は「あ、この子死ぬんだ」と思いながら、山田なぎさと海野藻屑が出会い、仲良くなり心を通わせ、山田が本当に大切なものを知るのを見守ります。読者は、切なさと鬱屈とした感情だけを残して読み終えることとなる。他の作品では絶対に経験できない読後感です。
読者の心を揺さぶる仕掛け
海野藻屑は「ぼくは人魚」と言い出すようにへんてこな性格からはちゃめちゃな行動を繰り返し、「さめてるやつ」と言われる山田なぎさを翻弄します。砕けた言い回しも多い一方、本編は「海野藻屑の死体を探しに山に登る現在」と「海野藻屑と仲良くなってゆく過去」が交互に描かれます。
初出が富士見ミステリー文庫(ライトノベル系レーベル)とあって、「海野藻屑と仲良くなってゆく過去」はライトノベル調の強い展開や言葉選びが多いです。それにより、更に最後の「死」のインパクトが強くなります。
ジャンル??
富士見ミステリー文庫から出版されているとあり、ミステリー要素はあるものの、本筋には大きく関係しません。小ネタとしてときどき謎解きが出てくる程度です。ジャンルとしては、サスペンス要素もありますが、本作の魅力はなんと言ってもなぎさと海野藻屑の付かず離れずの掛け合いです。
対照的な二人
貧しい家庭の事情から実用的なものを望むなぎさと、人魚という夢を追いかける海野藻屑。対照的な価値観の二人は関わり合う中で、それぞれの考えを突き合わせ、お互いを受け入れ合う。なぎさは学生としての楽しさを知り、海野藻屑は現実のなぎさという友達の大切さを知る。
けれど、最後には海野藻屑の死が待っている……。
読後感は鬱々しいですが、暗いだけで終わらない作品です。二人の掛け合いは楽しいですし、「本当に大切なもの」というテーマは儚い。文章も読みやすく、小話の謎解きも楽しめる良作となっています。
3、最後に
バッドエンドとして有名な今作ですが、様々な魅力が詰まっています。
拙い紹介文ですが、作品の良さが上手く伝われば幸いです。
またどこかでお会いしましょう。