ドイツ "察する"より先に言ってほしい 日本人が日本人と働く難しさ
火曜日〜土曜日の5日間、朝から晩までレストランに立っている日々を続けてきて1ヶ月。初めてのお給料が振り込まれた。やっぱり自分の努力を数字でもなんでも目に見える形で感じられるのは気持ちがいい。
日本で働いていたときも、オーストラリアで働いていたときも、給料日は楽しみだったけど、ドイツでの初めての給料日はなんだかさらに嬉しかった。
ドイツ語が話せなくても働くことを決めたように、できるかできないかわからないけど、とりあえずやってみた自分の努力を今回は給与という形で目に見える形にして、実感できた。仕事だけに関わらず、自分で自分の努力を認めてあげるって人生において大事なことだなと改めて気づかされた。
仕事はというと、1ヶ月経ってもオーダーを取るときは緊張するし、お客さんが言っていること(ドイツ語)が理解できずに悔しい気持ちになる毎日だ。
それでも、やるしかないから、ペンと紙を持ってお客さんの元へ行く。
ドイツ語をしっかりと学ぶためにも語学学校にゆくゆくは通いたいと思いながら朝から晩まで働いている。
ドイツ語は時間をかけてじっくりと伸ばしていくしかないが、仕事を始めてすぐに私が学んだことがある。それはドイツに限らず、「職場」という狭い世界での他の社員や上司との付き合い方だ。
それが日本人同士ともなると、これが結構、煩わしい(笑)
日本人特有の「察する力」を発揮しなければいけない。
ドイツだけでなく海外にある日本人が経営する飲食店で日本人が日本人だけを雇用したがるのはこの「察する力」に関係していると思う。
ドイツで学ぶ 器の小さい上司と付き合うコツ
私が働き始めてまだ3日目の夜。お店のテーブルは予約客で埋まり、従業員はみんな忙しなく働いていた。
予約が多い日はだいたい19時くらいに一斉にお客さんがやってくる。そのため食事を終えるタイミングもほぼみんな一緒だ。食事を終えたお皿を下げていく。キッチンの洗い場にお皿やお盆がたまっていく。
キッチンの人も手伝ってはくれるが基本的にホールスタッフが洗い場も担当している。
その日もアルバイトの方(といってもドイツと日本のハーフでドイツ語も日本語も流暢に話し、バイト歴は1年以上の先輩にあたる)が洗い場を片付けてくれていた。
私はまだ3日目ということもあり、どう動いていいのか把握しきれておらず、洗い場に置けなくなっていくお皿やお盆を重ねていき、さらに下げられてくるお皿やお盆を置けるようにアルバイトの方を手伝うつもりでスペースを作っていた。
すると、上司であるマネージャーが私のところにきて、
「あのさ、アナタがしていること意味ないから。もし洗い場を手伝うならもっと他の方法でして。」
と言われた。
(ちなみに、マネージャーもハーフで彼の日本語は少し不十分な時があるなと最近は思う)
仕事を始めて3日目。ドイツ語を話すというプレッシャーや新しい職場で、新しい仕事、環境ということもありストレスが溜まっていた私。
精神的にもずっと気を張り、疲れていたその時の私にとって、マネージャーのその言葉(言い方)は心に突き刺さり、頑張っている自分のことを否定されたような気持ちになり、仕事中にも関わらず、なぜか涙が溢れそうになった。
そんな私を見て、キッチンの方たちが優しく声をかけてくれる。そんな状況で優しくされるとなぜかさらに泣きたくなった。
実際のところ、泣くわけにもいかず、レストランが閉店するまでなんとか乗り切った。
その日の帰り道、彼に仕事が終わったよ、とメッセージを送る。
彼が電話をかけてきてくれる。今日の仕事はどうだった?と聞かれ、マネージャーに言われたことや忙しかったことを彼に話しているうちに、涙が溢れてきた。
泣いちゃいけない、と思えば思うほど、涙が溢れ、話せなくなる私。
電話越しに、泣きながら途切れる私の声を聞いて、彼はさらに心配をする。帰り道の途中まで心配した彼が走ってきてくれる。
家に着いてから、彼にその日あったことをまた説明する。
なぜ涙が溢れるのか、なぜ悔しいのか、を私は冷静に話そうとした。
彼は私の話を聞いて、
「マネージャーが言ったことをパーソナルに(個人的なこととして)捉える必要はないよ。フウカはまだ3日目なのに、こんなにもよく頑張っている。キミはすごいよ。」
と優しく話してくれた。
日本で働いている時もそうだった。
お客さんからのクレームを私個人に当てられた言葉かのように受け取り、傷ついたこともあれば、自分自身の仕事のできなさに憤ったこともあった。
でも、改めて彼に「個人的なこととして捉えなくていいよ」「キミは十分頑張っている」と言われたときに、その言葉と意味がスッと自分の中に入ってきたような気がした。
数日、働いているうちに、店が予約客で埋まり、テイクアウトの予約も溢れ、電話も鳴り、接客もしなければいけないという忙しい状況になるとすぐにマネージャーとボスのキャパがオーバーすることがわかってきた。
彼らは自分のキャパがオーバーすると、どんどんイライラし始める。
イライラし始めると、周りにその雰囲気をばら撒き始める(やめてほしい(笑))
今となっては、器の小さい人たち(哀)、と思いながら、彼らの邪魔にならない程度に、私は私のできる範囲の仕事をベストで尽くそう、という心持ち(ポジティブな気持ち)で働いている。
マネージャーとボスが忙しくてイライラするのは有名だったようで、後から聞けば他の従業員の人たちも私と同じ気持ちだったらしい。
イライラをばらまく彼らに対する「好き・嫌い」の感情はなく、余裕がなくなる人たちなんだなと今では割り切れるようになった。
だから忙しい時に、棘のある言い方をされても、いちいち気にしなくなった。
日本人の「察する」ということで言えば、別のエピソードがある。
また別の日に、マネージャーが洗い場をしていたので、私が「代わります」と言うと、「いや、ここはいいから前(ホール)に出てて」と言われた。
あ、またイライラしてるな、と思い、言われた通りにホールに出る。
またさらに別の日に、マネージャーが洗い場をしていたが、私はまた同じことを言われるな、と思って声をかけなかった。私自身、ホールで接客をしていたということもあり、代われなかった。
すると、彼の機嫌が悪くなっていた。
翌日、他の従業員の方から、マネージャーが洗い場をしているときにアルバイト(たぶん私も含む)が代わらなかったから機嫌が悪かったらしいと聞かされる。
え、何それ、代わって欲しいなら、代わってください、とかお願いします、とかなんとでも言えるやーん、とツッコミを心の中で入れ、日本人特有の「察する」ってことか、と思い、めんどくさいなと思いながら、そのモヤモヤを飲み込んだ。
日本人が日本人を雇いたいワケ
日本人が経営する飲食店などで日本人を雇用したい理由は、日本食のイメージや日本語でコミュニケーションが取れるということ以外の部分が大きいように思う。
「察する力」だけでなく、日本人らしい「暗黙の了解」とか「目上の人を敬う」とかそう言う文化を説明しなくても日本人同士なら理解しているという文化背景やお店のお金や物を盗まない、とか無断欠勤しない、遅刻しない、とかモラル?一般常識的な感覚も求めているからだと思う。
ただ言えることは、海外で働くなら、日本人が経営する飲食店はできれば避けた方がいいかも、と言うこと(笑)
海外で出会う同じ母国の人間同士、知り合えることは嬉しいが、それ以外にめんどくさいこともあるということを忘れちゃいけない。
それでも従業員の人たちはみんな気さくで、いい人たちばかりだ。
マネージャーやボスも機嫌がいいときは、冗談を言い合ったりと根までは悪い人ではなさそう。(と信じたい。今のところ)
日本人の「察する力」は素晴らしい。
でも言った方が早いときは、言えばいいのにと思うのでした。