メルト
休みの日だけど少し早起きをした。
日の光を浴びて、春の空気を部屋に入れた。
好きな人を思い浮かべて買った部屋のフレグランス
あと少しで空になりそうなのに今更気づいた。
そうか、そんなに時間が流れたのか。
知らぬ間に
色々なことが通り過ぎていく。
何かに追われている感覚からふと抜け出した優しい時間が懐かしい香りの中で過ぎていく。
無くなりそうなあの香りが
風に吹かれて行くのを見た
掴むことの出来ない優しい香りが
少しずつ遠くへ行く。
私の名前を呼ぶ声が聴こえたような気がする。
遠い記憶の中で揉まれて消えた愛しい声がした気がする。
もう一度この耳で聴きたかった
見て見ぬふりしていた気持ちに
改めて気づいてしまう。
また風が吹いた
靡くカーテンの隙間から誰かの笑う声がする。
行き場を無くした私を笑っている気がした。
もう触れることも無いのだろうか。
私を呼ぶ甘い声も
優しく私を見る顔も。
もう二度と私はあなたの瞳には映らないのだろうか。
あの人の中にもう私は居ないのだろうか。
思い出すこともないのだろうか。
きっとないのだろう。
思い出す理由が思いつかない。
好きでもなかったただの過去の人間は
風に吹かれて消える香りのように
溶けて消えていく。
いつか私もこのまま
この想いを忘れて生きていけてしまうなら
私は大好きだった香りに包まれて淡い光の中へ消えていきたい。
なんてまぁ冗談です。
今日はどこに行こうかな。
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