見出し画像

神保町で見つけた貴重なうどん本を紹介します!

 今日私は神保町の古本市に行って参りました。先週の金曜日から休暇を取ってましたのでもうちょっと早く行けたのですが、生来の怠け癖が出てしまい今日の今日まで行かずじまいでした。それでもう行かにゃならんと自分の体にサドかマゾッホみたいに激しく鞭を打って喝を入れて神保町に行ったのです。古本市にはやはり欲しい本がたくさんあってああでもないこうでもないと本を出したり戻したりそれを1分で五十回ぐらい繰り返したので露店の人にブチ切れられて追い出さたりしながら本を探していましたが、そうして本を探している最中にとんでもないレア本を見つけてしまいました。その本は秒速で即買いしてしまいましたが、私はまさかこんなものが古本屋の、しかも野ざらしの棚に置かれているなんてと本当にビックリしました。この手の貴重な本は流通で出回るものではなく、本来なら歴史的資料として博物館とかで厳重に管理されているはずのものです。

 この貴重な本というのは実は江戸時代中期を代表する本草学の泰斗の花圓饂飩が描いたうどんの研究書なんです。本の題名は『うどん料理 秘密箱』といいますが、この本は元々弟子たちの教材として木版印刷された本で現代には何冊も残っていません。なんと東大の史料編纂所にさえ所蔵されてないのです。私はこの本を330円で買いましたが、最初にこの値段を見た時は本当に驚きました。だってこんな貴重な本がかけうどんの小サイズの値段で売られていたんですよ。全く無知とは本当に恐ろしいものです。最近発掘された歴史的な資料が廃棄されたというニュースがありましたが、同じようにこの本も私が買わなかったら処分され、歴史そのものから消滅していたでしょう。

 さてこの『うどん料理 秘密箱』という本はその名の通り古代中国から始まるうどんの発展の歴史を綴っている書物なのですが、この本の中国に関する記述が現代では四散してしまった中国のうどん本から引用されているので、日中のうどん学者にとってこの本がうどんのルーツを研究する上で一番重要な資料なのです。全く無知とは恐ろしいものだと思います。なぜ古本を扱っている人間までがこの本の価値に気づかなかったのでしょうか。なんどもこんな愚痴めいた事を書いて申し訳ありませんが、やはりこれは繰り返し書かなくては私の憤りが収まりません。私は日本の教養の低下はついにここまで来てしまったのかと悲しくなりました。だけどいつまでも愚痴を言うのはさすがにおしまいにしましょう。ではここからは本の紹介に移りたいと思います。

 この『うどん料理 秘密箱』には様々なうどんの調理法が描かれていますが、その中で著者の花圓饂飩がおすすめしているのは天かす生姜醤油全部入りうどんというものです。花圓饂飩はこのうどんこそ至高のうどんだと書いています。彼は『天かす生姜醤油全部入りうどんに勝るうどんなし』とさえ断言しているのです。『うどん料理 秘密箱』によるとこの天かす生姜醤油全部入りうどんははなまるうどんという所で作れるのだそうです。ここは原文をそのまま紹介することにしましょう。

 まずはなまるうどんにてかけうどんを注文すべし。店の小僧からかけうどんを受け取りし後は薬味コーナーに向かうべし。そこにはうどんの三種と呼ばれる天かす生姜醤油が置かれている。まずはそこから天かすを取りてうどんに泰山のように山盛りにかけるべし。天かすは天女の衣と呼ばれ、食べしものを極楽に導くとの伝承あり。次に生姜を大さじ一杯かけるべし。生姜は琥珀なり。琥珀は龍の涙と呼ばれ、それを食べしものは肌がもちもちと輝き若返るとの伝承あり。最後は醤油を五回まわしでかけるべし。醤油は黒龍の生まれ変わりなるべし。黒龍は五回転体をよじらせて天を見回っていると伝承あり。

 それらをかけ終わったら天かす生姜醤油うどんの完成なり。このうどんは神のうどんなり。一口食べれば極楽浄土で永遠の若さと龍の如き力を手に入れられるものなるべし。かの家康公も天かす生姜醤油うどんを食べて天かを取ったという逸話あり。またあの秦の始皇帝の天下も天かす生姜醤油全部入りうどんの御力であったという故事ありけり。嗚呼我今日も天かす生姜醤油うどんをはなまるうどんで食す。極楽ぞとうどんを食べるごとに我口ずさみ、これぞ極楽と涙を流さむ。

花圓饂飩著『うどん料理 秘密箱』より

 もうさすがとしか言いようがないです。今の学者にここまでうどんを語るでしょうか。この記述には初めて天かす生姜醤油全部入りうどんを食べた時のワクワク感やドキドキ感が純粋な形で綴られています。果たしてこの本草学者の泰斗と呼ばれる偉大なる学者にここまで褒めちぎられるうどんは今食べられるのでしょうか。もう文献で在りし日のうどんを想像するしかないものなのでしょうか。いえ、そんな事はありません!天かす生姜醤油全部入りうどんは今でも全然食べられるんです。私は神保町でこの『うどん料理 秘密箱』を買った後、古本街の端にある現代のはなまるうどんで文献に書いてあった通りの方法で天かす生姜醤油全部入りうどんを作って食べたのです。それはもう花圓饂飩が記した通りの極楽の味でした。極楽過ぎてせっかく買った『うどん料理 秘密箱』をはなまるうどんに置き忘れてしまったほどです。一体あの本は今どこにあるのでしょうか。警察には届けていないので本の居場所は掴みようがありません。

 今日のうどん記事はこれでおしまいです。次回もお楽しみに。ちゃお!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?