全員マスク! 第8話:怒りのキャロライン!
衝撃の発表。全ての予定が狂ってしまう。気狂いピエロ、狂った果実、ヌーヴェル・ヴァーグの傑作とその先駆の日本映画。ああ!裕次郎も慎太郎も津川雅彦もすでにこの世にいない。右翼の絶滅、左翼の復活。過去は消え去り未来が今ここに立つ。過去とは太陽族。そして未来とはイーロン・マスクを信奉するマスク族のジョニーだ。太陽で肌を焼くように、マスクを日干ししたい。だけどマスクは不繊維じゃないとダメさ。布だと菌がすり抜けるから。だけど不繊維は一回こっきりのコンドームみたいなもの。何回も使っちゃ病気になるぜ。しかし、生でやりたいって奴が現れたらどうするんだ。コンドームつけないでセックスしたがる人間がいるんだから、マスクをつけないで外歩きたがる人間ならそれ以上に沢山いる。そいつらの代表が今壇上にいるエリー・マイ・ラブ・ソー・スイート。愛しのエリーだ。
ジョニーは打ちのめされていた。マスクを捨ててマスクからの開放を訴えるエリーに自分のすべてを否定されたような気がした。マスクとイーロン・マスクの全否定。ヨーロッパ帰りのエリー、お前はそんなにアメリカが嫌いなのかい?ベイビー、ただそれだけのことさ、ベイビー、ただそれだけのことさ。憂鬱なるタンゴ、コカインの代わりにヘロイン吸ってダウナーになっちまう。ジャンキー一歩手前。猫背で街を徘徊する。そのジョニーとぼうぜんとして立ち尽くす壇上から降りたエリーがキャロラインとジョニーの元にやってきてジャブ代わりに一発かましてくる。
「昨日振りね、カオリ。どう、私取締役になったのよ。凄いでしょ!昔の友達がこんなに出世したんだから当然喜んでくれるわよね?ブ・ッ・チ・ャ・ー!ハハハハ!」
軽いジャブ。しかし見事にクリティカルヒット。キャロラインは信じ難い事態にふらついてしまう。ああ、もうダウン寸前だ。そんなキャロラインを置き去りに、エリー・マイ・ラブ・ソー・スイート。愛しのエリーは唇晒しの勝者の笑みで去ってゆく。
「チキショウ何が昔の友達だ!あのハプスブルク女め!よくもよくもこの私をバカにしてくれたわね!何がブッチャーだ!人の昔の傷を掘り返しやがって!」
既に総会が終わり、誰もいなくなった会場でキャロラインは悔しさのあまり喚きまくる。ああ!なんてはしたないんだベイビー。これがヤンキーガール仕草なのかい?ジョニーは自分もエリーの挑発に怒ったふりをしてキャロラインにエリーの事を聞きまくる。
「ベイビー、あのエリーって女とんでもないクソビッチだぜ。なぁ、キャロラインお前とあのクソビッチとの間に何があったんだい?なんでお前はブッチャーなんて呼ばれたんだい?よかったらマイハニー、俺だけには打ち明けてくれ」
呆れ果てたキャロライン。ジョニーの下心は全部丸見えだ。何このエリー・マイ・ラブ・ソー・スイートって顔。コイツはやっぱりとんでもないクズだ。ヤケクソのキャロライン。アンガーなバーニングのままにジョニーに全部ゲロってしまう。まるでT.S.エリオットのゲロンチョン。ノイズバンドのゲロゲリゲゲゲ。容疑者がゲロった。ああ!お客さん、駅のホームでゲロしないでくださいよ!
「何がエリーだ!あなたはそんなにあのアゴ女が好きなの?アイツはずっとアゴだってバカにされてたから、整形したのよ!多分あの突き出た胸もシリコン入れまくりよ!あのアゴ女は小学校の時、私をブチャ子転じてブッチャーとか陰口言ってたのよ!あれから私がどれだけ努力して今のセクシーボディを手に入れたのかわかってるの?それなのに私をブッチャー呼ばわりして!許さない!絶対に許さない!」
ジョニーは悔しがるキャロラインを切ない表情で見る。明るいヤンキーガールの彼女が涙を泣きそうな顔になるほど悔しがるなんて。ビーチボーイズのキャロライン・ノー。ハッピーに輝いていた君はどこにいったの?ダメだよキャロライン。ジョニーは思わず抱き締めるためにキャロラインのマスクを剥ごうとする。ベイビー素直になれよ。本当の君が知りたいんだ。
「アホンダラ!何どさくさにまぎれて人のマスク取ろうとしてんのよ!あなた今それどころじゃないでしょ!私たちの『全員マスク』プロジェクトがあのアゴ女のせいで中止になるかもしれないのよ!今から社長の所に行くわよ!徹底的に問い詰めてやる!」
怒りを込めて振り返る暇もないキャロライン。まるでカミカゼのように社長室をぶち破る。奥にいた社長をはじめとする幹部連中はこの真っ赤なスーツにMASKrespectの白いマスクをつけた突撃女に戦々恐々としてビビりまくる。ああ!キャロラインは社長の机を拳で突き破って怒りまくる。ああ!まるで風と共に去りぬのスカーレット・オハラ!近所の小原さんじゃなくて本物のアメリカビューティー。まさに燃え盛る情熱の女!ジョニーは思わず見惚れてしまう。まるで手のつけられないじゃじゃ馬。まさにヤンキーガール。俺はやっぱりアメリカンが好きだ!