フランツ・シュミルソン

 私は彼を知っているが、彼は私を知らない。まぁ相手が有名人だったらそういうことはあるだろう。しかし私と彼は共に銀行員であり、しかも席が隣同士なのである。そんな関係なのにシュミルソン氏は私を知らないという。これはいささかカフカ的な状況ではないかとも考えたりした。彼は誰かが私の名前を呼んでも私の方を振り向かず別のデスクにいる人間にお前呼んでるぞとかいうのだ。これはどういうことなのかと私は考えたがあっという間に答えが出た。実はフランツ・シュミルソン氏以外皆同じ名前なのだ。チーフが私の名前を呼ぶとみんな立ってチーフの所に行く。そして給料日には絶対に支払い間違いが起こるのである。その結果私たちの一人が二人分もらい、またある一人は無支給という事もよくある。シュミルソン氏は私たちに向かって大変だねと慰めてくれるが、私たちは逆にシュミルソン氏がかわいそうで仕方がない。早く私たちと同じ名前になればいいのにと思う。だから私たちはある日役所に行って彼の名義を私たちと同じようにしておいたこれで彼も喜んでくれるだろう。


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