ロシア文学秘話:ドストエフスキーの改心
ロシアの大文豪ドストエフスキーは若かりし頃社会主義者ペトラシェフスキーに深い影響を受け彼のサークルに出入りしていたが、その事が原因で国家反逆罪で逮捕されてしまった。ドストエフスキーには銃殺刑の判決が下されたが、死刑執行直前に何故か減刑処分が下された。この死刑執行と突然の減刑は皇帝によるやらせと言われているがこの出来事はドストエフスキーに一生消えないトラウマを植え付けた。彼はシベリアで十年にも渡る流刑生活をひたすら真面目に過ごしたが、ペテルブルクに帰ってきて再び小説家として活動を始めた途端猛烈な賭博熱に取り憑かれてしまったのだ。ルーレット、トランプ、花札、パチンコ、スロット、競馬、ボート等片っ端から手をつけた。こうした彼の行動はシベリアでの禁欲的な生活の反動だと言えるであろう。シベリアから帰ってきた途端ドストエフスキーは百八十度性格が変わってしまったのであった。
ドストエフスキーはそんな自分を恥じて救いを求めた。スロットの液晶に映るエヴァンゲリオンの綾波にニタニタする自分を猛烈に嫌悪しせめてリアルな女性と付き合おうとして片っ端から女性にアプローチしたが、引っかかったのは彼の金目当ての女たちだけであった。最初の結婚は不幸に終わった。ドストエフスキーはこの妻に一瞬で飽き、酷いことに借金のかたにレンタルしようとして妻にブチ切れられて三行半を突きつけられたのだ。その妻と別れてすぐに付き合い出した愛人は彼が執筆して稼いだ金を残らず持ってとんずらした。もう絶望で死ぬしかないと彼は決意し、その前に残った金をすべて賭けに使ってしまえともう数枚しかなくなった札束を握りしめて外に行こうとした。その時出くわしたのが、ちょうど原稿を取りに来た編集者のアンナだったのである。
ドストエフスキーは初めて見るこの若い編集者に今まで関係を持った女たちとまるで違う清浄さを感じた。もしかしたら彼女こそ自分の聖母マリアなのではないかと思った。またアンナもこの自堕落なパチンカスのドストエフスキーに母性を感じ叱ってやりたい思いに駆られた。
「何だお前編集者か、残念ながらお前に渡す原稿なんてないぜ!どきやがれ!俺様は今から賭場に行くんだからよ!」
アンナはドストエフスキーがこう吐き捨て自分をすり抜けようとするドストエフスキーの肩を掴んだ。そして彼を思いっきり引っ叩いた。
「バカ!あなたはいつまでそうやって自堕落な生活を送っているつもり!あなたは今の自分に罪と罰を感じないの?小説家だったら賭博なんかやらないで地下室で手記でも書いてなさいよ!あなたそんなこともわからない白痴(馬鹿)なの?いい加減自分が賭博って悪霊に憑かれていることに気づきなさいよ!あなた未成年じゃないんでしょ?となりのカラマーゾフさんの兄弟だってあなたよりマシよ!あなたは才能があるんだから賭博なんかやめてちゃんとしたもの書きなさいよ!」
ドストエフスキーはこの女の言葉に本気で目を見開かれた。この女は自分にとって真の聖母マリアであり、預言者なのではないかと思った。ああ!小説の構想が次から次へと浮かんでくる!ドストエフスキーはこの女に一瞬にして恋してしまった。この女は淋しい病気を持っていない女だ。この女は離してはならぬ。ドストエフスキーは衝動的にアンナの両腕を取り涙を流しながらアンナにプロポーズした。
「結婚しよう!僕は君の永遠の夫になる!」
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