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【短歌】孤独を癒す闇


闇にしか癒せぬ孤独があるだから街の灯りと星月夜は照る


【淡く光る物語】

秋。
東京に引っ越すことになった。
友達からもらった花束を手に見慣れた景色に別れを告げ、私は東京に来た。

引っ越し作業がひと段落ついた私は、通うことになる中学校の登下校の道を下見をするために外に出た。

玄関を開けると、秋にしてはまだ暑い日に照らされる。アスファルトの熱が私を襲う。嫌な予感がした。それでも、ジリジリと照りつける太陽の下、私は秋の東京を歩きだした。



歩き始めて5分。既に帰りたくなった。

登下校が田んぼ道だった私からすると、お店が立ち並ぶ大きな歩道を通って学校へ行くのは怖い。

それでも頑張って歩いていた。

信号待ちの交差点。
アスファルトの照り返しが強くてクラクラする。ガラス張りのビルから反射する光が目を焼く。

ふと右を見ると、カラフルな髪色をした大学生が、賑やかに通り過ぎていった。左側には、私と同じくらいの子達が、カバンに大きなクマのキーホルダーをつけて、おしゃれなカフェに入っていった。


見慣れない風景の中で、私はポツンと立ち尽くす。

真昼の大都会。
そこに私の居場所はなかった。


どれほど多くの人がいても、私は孤独だった。
太陽さえ、私には寄り添ってくれない。

もう、これ以上ここにいたくない。
道を確認するのは、明日でいいや。
太陽に背を向けて、私は帰宅した。




夜、新品の布団に包まれて眠れずにいた私は、都会は夜景が綺麗なのだと聞いたことを思い出した。

真っ黒なカーディガンを来て、忍足で廊下を歩き、家の外に出る。

鈴虫の鳴き声もお淑やかに聞こえる。
田舎では、眠れないほどうるさかったのに。

秋風が冷たい。
黒いカーディガンをぎゅっと握った。

このまま夜の闇に溶けたら、もう太陽を浴びなくてすむだろうか。

都会の昼が憎い。だから、帰りたくない。
田舎の夜が恋しい。でも、帰れない。

昼にも夜にも馴染めない。
どちらにも染まれない自分が、苦しい。

帰りたい。
帰りたいよ。

視界が滲む。

滲んだ視界の向こうに、フェンスが見えた。
家の近くの高台まで来ていたらしい。

少し歩いてフェンスに近寄った。
そのままフェンスに体を預ける。

視界は滲んだまま。
涙を流したくなくて、上を向いた。


そこにあったのは、優しい光だった。



夜の紺色に星のダイヤモンドを散りばめた光。一つひとつは小さく弱い光なのに、集まると闇夜を照らす大きな光になっていた。


夜空が、私に囁く。

ー泣いてもいいんだよ。
ー寂しくてもいいんだよ。

ぽとり、と涙が落ちた。
きらりと閃く雫を追って、目線を下げた。



そこに、もうひとつの星空があった。



漆黒のアスファルト。
街灯や家の光が宿っている。

温かい光だ。
人々を支える美しい光。

きっと、暗闇の中でしか見えない淡い光。
きっと、光の中では輝けない微かな光。

けれど、確かに私に希望をくれる光。
見えずとも、真昼の空にもあった光。

街を飾る光の中に、私の涙が一雫、落ちた。

それは、
きらりと光りながら、
街の煌めきの中に混ざった。



明日は、太陽に怯えずに都会を歩ける気がする。

だって、ここはこんなにも優しく輝いているのだから。




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