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合わせ鏡のなかの未来

「私」という出来事は合わせ鏡に似ている
合わせ鏡のあいだに挟まれば、そこでは無数の自分が背中と顔を合わせている
不思議でかつ不気味な光景。

この不気味さはどこにあるのか
ひとつには、どこまでも自分が続いていること、その整然とした感じが怖ろしい
もうひとつには、この連鎖がどこかで途切れているのではないかというのが怖ろしい

この自分はこの連鎖のひとつにすぎないのか
自分が手をあげれば「私」たちは一斉に手をあげる
手をあげたのは本当に自分の意志なのか。鏡の隙間のどこかに、別の自分がいるのではないか

三つ先の鏡の隙間で、こちらに背を向けている自分は泣いているかもしれない

今ここで微笑んでみよう
それにつられたように目の前の自分が微笑む
その背後のこちらに背を向けた自分も微笑んでいるはず。その向こうの自分も微笑んだ

笑顔がここにいる自分から遠くの自分へとさざ波のように伝わっていく
ひょっとするとこの笑みも、この自分の背後から伝わってきたものだったのかもしれない

「私」とはこのようなもの。自分が今ここで笑ったから、過去と未来へと連綿と連なる自分の全体が笑う。これがアイデンティティという出来事。

そうだ、自分はこうやって過去から未来へと一直線に自分を貫いて私になる
自分自身、無数の笑みの一部になりながら、無数の笑みを自分自身の一部にして

けれども思う、この笑みの波のはるか先には、この合わせ鏡の無限遠点には、まだ笑っていない「私」たちが無数にいる

あなたたちにも笑ってほしくて、笑ってる


読んでくれて、ありがとう。

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