【エッセイ】未来を思い出す
私たちは未来を「思い出して」いき、その果てで死を思い出す。
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未来を思い出すために過去を忘れ去る。過去の全てを覚えている存在がいるとしたら、その存在は時間を知らない。
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この身体は、「私」の視界の裏側にあるように、といったい何によって定められたのだろう? 神様だろうか。この果てしなく近くて遠い場所に帰ろうとして、視線はできるかぎり先まで行こうとする。
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今までだれも忘れることもなかったようななにかを忘れること
それまでの世界が思いもよらないよらなかったような彼彼女たちの思いは、なによりもそこからはじまっていたのではないか
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忘れられることによって、はじめて、世界の内外に資格を与えられるなにかがある
それ以前の忘れられる前の状態があったわけじゃない
ただ忘れられることがなによりもまず先にあって、そこから、そのなにかがはじまらずにはじまる
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忘却より前に、忘却以前の元の状態があるとは限らない。忘却によって、忘れることによって、なにかしらの無が有になることだってあるだろう。
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有とは無を忘れることだ
無とは有を忘れることだ
どちらの考えのほうが人の感性をより惹きつけるのか
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ある種の研ぎ澄まされた思惟は、誰も考えることのなかったことを考えると同時に、誰も忘れることのなかったことを忘れ去る
おかげでその思惟に触れた人々は、それが忘れ去ったものを思い出す必要に迫られる
けれどもきっと、それは、その思考自身にしか忘れ去ることのできなかったなにかなのだ
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誰も思いつかなかったようなアイデアを手に入れることと、誰も思いつかなかったような忘れ方をすること。その忘れ方と覚えていることの配置が召喚する魔物。
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「私」の周囲を私の覚えているものが取り巻き、そのむこうには、私の忘れ去ったものたちが広がっているが、その広がりのさらに先にはなにが待ちうけているのだろう。死?
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死とは、ひょっとすると、一切の全くの忘却なのかもしれず、私たち一人一人に与えられたそれぞれの果てで、死を思い出すとき、私たちはすべてというすべてを、時間さえも忘却するのだろう。
読んでくれて、ありがとう。