いなくなってしまった凄いレジのおばさん[日記と短歌]24,10,1
かなしみが20円ぶん乗っていて20円安くなる大根/夏野ネコ
スーパーマーケットを選ぶ際、価格や品揃え、立地などと並んで「レジのひとの能力」も割と重要じゃないかな、と思っています。
そのレジスキルで凄いおばさんが近所の地元系ストアにおり、ほどよく良心的な生鮮の品揃えもあって、私は優先的にそのお店を利用していました。
世の趨勢はセルフレジですが、おそらくそのストアにはそこまで投資を回す余裕がなかったのでしょう、パートの方たちが相変わらず手打ちで頑張っていました。
中でも彼女の速さと正確さはハンパなく、とりわけ精算済みバスケットへ商品をおさめていく的確さと隙のなさが凄かったのです。
野菜から飲料、日配品、鮮魚精肉お菓子まで、種々雑多に突っ込まれたバスケットの中を、瞬時の判断でPOSを通す順序を決め、凄い速さで、精密に、完璧なバランスで、隙間なく精算済みバスケットへと移していく。めちゃくちゃ上手い人のテトリスを見ているようなそれは、もはや神が宿っているのでは?と思えるほどでした。
ある日その凄さをどうしても本人に伝えたくて、レジを通し終わったタイミングで私は彼女に声をかけました。
「レジめっちゃ早いですね!めっちゃ綺麗に詰めますね!凄いです!」
するとおばさんは目をパチパチさせながら、い、いやそんな、私なんて、、と何故か恥入るように俯いてしまいました。
ひょっとして何か悪いことを言ってしまったのでは、と思ったけれど、しかしまんざらでもなさそうなおばさん。それ以上に意外だったのかもしれません、こんな風にレジのおばさんに声をかけるお客なんて、まぁいなさそうだし。
あるいは褒められるということに慣れていない方なのかもしれない、と思って少し胸が痛みましたが、でも伝えられたことに満足してその日は帰りました。
それからほどなくして、おばさんのいるストアは閉店してしまいました。
すでに近くに出店していた大規模チェーンの価格競争に敗れたのです。小さなお店が頑張って仕入れてきた価格を踏み潰すように、大規模チェーンは容赦がなかった。セルフレジへの投資が進まないほどのお店です。仕方ない事かもしれません。
今では私は件の大規模チェーンのセルフレジでいろんなものを買っています。薄情なのはわかっているけれど、それが消費者なんだと言い訳をしながら。あの素晴らしいレジ捌きを見ることはもう叶わないんだと、自らのへたくそな手つきでぎこちなくセルフレジを通しながら。
それでもたまに別のスーパーに足を伸ばしたりします。
もしかしたらあのおばさんがレジに立っているかもしれない、とちょっぴり期待しつつ。会えなくても、どこかで凄いレジ打ちをやっている姿を想像しつつ。