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歌集、傘杉峠を読んでいます [日記と短歌]23,5,28
浮き石を踏みして歩む峠より遠き景色は青に霞みつ/夏野ネコ
金子正男さんの歌集「傘杉峠」を読んでいます。
生活の中の些細なこと、旅先でのこと、仕事のこと、そこにあるものらを自然に、時に自分を重ねながら詠んでおられる歌集です。
偶然そこにあった景を詠むことについては、例えば玉城徹さんの評書「茂吉の方法」で示されていたところの「断片」のようなソリッドさではないのですが、じんわりと沁みてくる歌たちで、成立させているのはおそらく無欲さといったものです。少し紹介しますね。
土手の草枯るるに霜の光る朝速歩にゆけば身の火照りくる
詩的パッションを表出させるでなく、景を取り出して主張を強く託すでなく、目の前の心のありようを、そのまま詠んだかのような歌は、ぱっと見の派手さ、いわゆる令和的エモさなどは全くないのだけど、ゆえにこそ平凡な生の、その一回性の尊さを強く感じます。
地味といえば地味ですが、今の(ネットの)短歌に見ることの少ない味わいがむしろすがすがしく、森の空気を呼吸しながらのんびり歩いているような気がします。そうして読んでいくうち少しずつ峠を登り、自分の生活の景色もほんのちょっぴり違って見えてくるような。例えばこんな歌も沁みます。
平かな石は鋭く水切ると明けの川面に妻と投げ合う
私はブームに乗った令和のネット歌詠みなのでまったく偉そうなことは言えませんが、エモーショナルな景を比喩を交えて自分化させる歌法というか、どこかJ-POPみのある短歌は一定数あるように思います。死や別れみたいな重大な題材をけっこうカジュアルに使っていたりもして、いやそれ自体否定するものではないけれど、少しそちらの方を無自覚に泳いでいたかもしれない、自分。と思いました。
そんな私だから、金子正男さんの生活詠に惹かれてます。そうか、そういうのがいいんだよな。的な腑に落ち方をして、まだすべてをじっくり読んでいないので、これからもじんわり読んでいこうと思います。