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コインランドリーは銀河の夢を見る[日記と短歌]25,2,19
ランドリー僕たちは銀河を見張るもう帰れないアンドロメダを/夏野ネコ
休日の午後とあってランドリーの洗濯乾燥機はすべて埋まっていた。
毛布の入ったIKEAのバッグ──ブルーシート地の、こういう時に「だけ」出動するあのバッグ──を抱えて近隣の店まで歩くのも億劫なので、どれか空くまでこのランドリーで私は時間を潰すことにした。
いったいに私はコインランドリーの、微かな焦げくささと仄かな石鹸の香りとが混じった、キャラメルが乾いていくような匂いが好きで、そこでぼんやりとダイドーの缶入りココアを飲む時間が好きなのだ(ランドリーの前の自販機にあるのだ)。
コスパタイパでいったら悪すぎるこの時間はだけど、なんだろう、時間も場所も拘束されているのに、とても自由に思える。目まぐるしく忙しい日々にあって、かりそめすぎる自由だってことは、もちろんわかっているけれど。
目の前ではごうんごうんと横型ドラムがいくつも回っており、それはさながら銀河団のようでもある。
ランドリー銀河。
シャツやタオルやパンツや下着まで、いっしょくたになって宇宙を形成しているこの場所が、あたかも世界の中心のように思え、きみたち宇宙の中心でどんな夢を見ているのだい?と、他人の洗濯物に問いかけながら、この天の川銀河の片隅の、太陽系の片隅の、ちっこい惑星の片隅の、豆粒みたいな島国の、そのまた小さな街で銀河を、銀河みたいな遠くを夢見ているのは、さらにちっこい自分なのだろうと思う。
ようやく空いた洗濯機に毛布を放り込み、冷めたココアを飲み干して表に出ると、午後の日が翳る中もちろん空には天の川など見えない。私自身が銀河の中にいる、という実感も、ほとんどない。
でも遠い宇宙の果ての方で、天の川で洗濯している神様とかそういう存在を想像すると、ちょっと宇宙がいとしくもなってくる。
しんどいことも多い毎日で、どこか遠くへ行くこともかなわないけれど、この宇宙の片隅をもう少し愛してやろうかと不意に思った。
そんな早春の日の午後のこと。