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犯罪心理から目を逸らすのは、自らの凶暴性から目を逸らしたいから
いま、犯罪心理に関する本を読んでいる。
社会的には批判の多い、ずっと読みたかった本だった。
元少年aの書いた『絶歌』だった。
「犯罪」の動機や背景に興味は絶えなかった。
「犯罪」に関しての、人の反応にも興味があった。
そして、誰しも持ち得る人の「凶暴性」に興味があった。
「残虐な殺害のニュースという目を逸らしたいと思うトピックでも、なぜ人は目を逸らさずにはいられないのか?」
「なぜ、殺人を犯す人を、初めから自分とは異なる生きもののように考える人もいるのだろうか?」
不思議でたまらなかった。
前提として話しておくと、
私は、自分を含めた殺人をしたことのない人間は、"たまたま殺人を犯さなかっただけ"だと考えている。
また、ここで出てくる本を読むことを推奨しているnoteではないことをご理解いただきたい。
──連日起こるニュースで報じられる殺人事件。
なぜ、マスコミはこれほどまでに特に"殺人"のニュースを毎回取り上げるのだろうか。
きっとそれは、無意識に自己防衛本能として、"人間の凶暴性"を知ろうとしているのではないだろうか、と思った。
人間にとって自己を知ることは、本能的に必要だと知っているのだろう。
誰しも、「凶暴性」を持ち合わせている。
「明日が我が身だ」と言えると私は思っている。
「自分が殺人を犯すわけがない」と高を括って盲目になっている人のほうが信用ならない、と私は感じる。
2019年、大学教授で犯罪心理学者の男性が、自分の妻を殺害した事件があった。
この事件は、
「客観的に物事を分析できるプロの研究者であってもいかに盲目に気づかないか」を証明したと言っても良いと私は思う。
大学教授も務め、支援活動もしていて第一線で活躍していた被疑者は、「こんなにも犯罪心理学についての知識が長けている自分が、まさか殺人を犯すなんて、そんなことはあり得ない」と顕在意識では考えていたのではないだろうか。
何に関しても、"盲目になっているのに、盲目に気づかない人"が一番怖いと私は感じる。
つまり、「無知を知らない人」が怖いことと同じだ。
ソクラテス「知者だと思い込み、"無知の知"を知らない人は、知恵を求めようとしない。」
本当に、このとおりだと思う。
きっと、あの事件の犯人である学者の男性は、ソクラテスの言葉を理解していたはずだ。
しかし、顕在的にはその理解を示していたと思うが、潜在的には意識になかったのではないだろうか。
元少年aの本は、理路整然とした文章がとても印象な本だった。
殺人を犯しているときの自分自身を、客観的に自分を分析していた様子が、予想通りであるような、「そうであってほしくなかった」と心のどこかで思っていたような気持ちになった。
人間は特に、”ツクリモノの感情"を発露させてしまう不可解な習性を持っている。
心の奥から素直に湧き出た"ナマの感情"が先にあって、いろいろな理屈付けを試みながらそれな振りまわされているうちはまだいい。
厄介なのは、自分の脳内で無意識下に生成された"未確認思考"が、自分でも思いもよらないような"感情を伴わない感情"を発動させ、そのハリボテの感情がまるで自身の中から自然に湧き出たものであるかのように振舞い、肉体の音頭をとっている時である。
あなたが普段いだいている怒りや喜びは、本当にあなたの体内から湧き出ている"純度百パーセント"の感情だろうか?
そこに、"不純物"は一ミクロンも混ざっていないと言い切れるだろうか?
この部分が、かなり印象に残った。
自分と全く同じ感情を抱くことは、誰一人としていない。
元少年aの気持ちに完全になることは不可能だ。
しかしながら、「もし彼の気持ちに完全になったとしたら、同じことをせずに生きていけるのか?」
とすごく考えた。
この問いに、答えなんて存在するわけがない。
考えるための問いだった。
そんな問いを立てるために、私は犯罪心理を調べることをしてきたのだろう。
私は、死刑制度は反対派だ。
いろんな事件の犯人の心理を見ても、何か重い罪を犯せば、「死ぬことができる」と考えて罪を犯す人が後を絶たない。元少年aもそうだった。
それは、自傷行為と何ら変わりないと私は考えている。
他者を傷つけることで、社会と断絶できる。
そして「社会と断絶されている」ことを実感することで自分を傷つける。その最上級が、「殺人を犯して、死刑にされること」だと、今の私には他に考えつく答えはなかった。
そして、実は死刑制度のある国は少数派だ。
世界にある193カ国(国連加盟国)の7割ほどが死刑を執行していない。ちなみに欧州連合(EU)も既に死刑制度は廃止されている。
これからの社会を考えていく上で、犯罪心理についての話は欠かせないのではないだろうか。
犯罪者が出てしまうのは、社会の歪であると、どの犯罪者の本を読んでいても私は感じる。
「もし彼の気持ちに完全になったとしたら、同じことをせずに生きていけるのか?」
と、自問自答できる人がもっと多い社会になって欲しいと切に願う。