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夜明けのすべて
映画「夜明けのすべて」をようやく鑑賞。
原作とは異なる設定により、後半はオリジナルのストーリーが紡がれていく。それでもなお、素晴らしい。
誇張も強調もなく、描かれていく日々。
それぞれの生きにくさと癒えぬ悲しみが織り込まれた日常の中で、完全に知ることはかなわなくても心に手を添え慮る人々。
歩んできた道は様々。
その混ざり合うところで交わされる、繰り返す痛みを胸に秘めるからこその、確かなやさしさ。「わからない」ことを「わかり」ながら、心を寄せるということ。思い通りにならない自分自身に戸惑って、受け容れ、かすかな光を見いだしていくこと。
同じ薬を飲もうともぴったりと重なりはしないお互いのつらさ、すれ違う気持ち。
それを知るために、しっかりとした情報に触れる真摯さ。クリニック医師の、明るく親しげな口調で呈されるさりげない警告。
持病を抱える身として「こうあってほしいな」と思ったり、「あるあるだなあ」と頷いたり。勿論それぞれの疾患や悩みは一般化などできるものでは到底ないし、心情はひとりひとり異なるもの。しかし、似たような経験を思い出した人もいるのではないかと思う。
曝露療法を勝手に試みてしまうくだり、見守る側の待てない心情とそれを叶えられない痛みに、胸がつらくなった。
身近な誰かが期待することによって、結果的に「できない」を積み重ねてしまうことは、当事者にとっては非常に苦しいことなのを知っている。
「できるかも」と思いついても、患者に合うのか合わないのか、できるかできないのかを判断できるのは、状況を見極められる医師でしかない。過ぎ去りし2年の月日、見通せない未来。つい逸ってしまった気持ちと止めてあげられなかった焦り、どちらも切ない。
リハビリのシーンも丁寧で、色々と思い出してしまった。たった5年で人生はがらりと変わる。
表情が穏やかなのは、これまでも闘って受容が進んできているさまを垣間見るようだった。ひとつひとつの編み目に込められているだろう気持ちと努力、ぴょんと飛び出た毛糸のループ。完璧ではない手袋を愛おしげに受け取る手。静かな中にリアリティが息づく。
男女ふたりが恋愛ストーリーとして消費されるのではなく、群像劇の中のふたりとしてともに立っているのがとてもよい。それぞれの登場人物に、それぞれのバックグラウンドがちゃんとある。存在している。そして、誰も軽々しくジャッジされなくなっていく。
生きて、夜明けを前にして、夜の中に在ること。「夜についてのメモ」と、それを静かに聞く人々の生と。
大人たちの眼差しがまた・・・・・・あんなふうに理解のある会社があちらこちらにあったらいい。
泣ける映画だなんてクリシェで語りたくはない。ただただ、いい作品だった。
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