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ロイトゲープが語る、モーツァルトの《ホルン協奏曲第1番》
Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
この番組では、毎回異なる音楽家がパーソナリティーを務め、
自身のお気に入りの曲と、その曲にまつわるエピソードを語っていきます。
今日の担当は、ホルン奏者のヨーゼフ・ロイトゲープさんです。
(お話は史実に基づき構成しています)
こんにちは、ホルン奏者のヨーゼフ・ロイトゲープです。
今はウィーンを拠点に演奏活動をしています。
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と思われる肖像画
今日は、僕の音楽仲間であり、可愛い弟分の
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが
僕のために作曲した二長調のホルン協奏曲を紹介します。
僕とモーツァルトの付き合いは、もう20年以上になる。
とても長いんです。
モーツァルトは当時7歳、僕が30歳を過ぎた頃、
モーツァルトの父レオポルトを通じて彼と出会ったんだ。
出会ったと言っても、レオポルトと僕は、
当時ザルツブルク宮廷で一緒に働く同僚だったからね。
同僚の息子として、彼のことを知ったんだ。
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左から、父レオポルト(1719−87)、ヴォルフガング(1756−91)と姉ナンネル
水彩画 1763年-1764年頃
モーツァルトの父レオポルトは僕にとっては年の離れた兄のような存在、
モーツァルトは年の離れた弟のような存在・・・
レオポルトは、いつも僕の面倒を見て気にかけてくれたし、
モーツァルトは、小さい時から兄のように僕のことを慕ってくれているんだよ。
そんなことで、モーツァルトには、
ホルンの曲を書けよって、いつも口癖のように言っているから、
何曲も書いてもらっているんだよ。
今日は最近書いてもらったそのうちの1曲、
二長調の協奏曲のロンドを紹介するよ。
モーツァルトが第2楽章のロンドの部分を書いたときは、
ちょうど、みんなで家で集まっていた時。
モーツァルトが僕に
「ストーブの前でロバみたいなポーズをとったら、書いてあげる」
なんてバカなこと言ったんだ。
それで、僕が言われた通りひざまずいてロバの真似をしたら、みんな大笑い。
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モーツァルトは
「仕方ないなあ、ロバ君のために書くよ」
なんて言ってペンを取って書き始めたんだけれど
「ここはこうして演奏するんだ」って笑いながらブツブツ言っていて、
ホルンのソロの楽譜には、音楽に合わせて
こんな落書きもしたんだよ。
ロバ君ーさあ、早くーいい子だから-勇気を出してーまだ終わらないの?ー
野獣君ーああ、なんという不協和音ーああ!ー災いだ!ーよくやった、哀れな男ー
ああ、玉が痛い!ーああ、神よ、なんという速さ!ー笑わせてくれるー助けてー
一息ついてーさあ、さあー少し良くなったーまだ終わらないのかーひどい豚め!ー
なんて魅力的なんだ!ー愛しい人よ!ー小さなロバ!ーはは、はは、ははー
息を吸って!ーでも、せめて一音くらいは吹けよ、このゲス野郎!ー
嗚呼!ブラボー、ブラボー、万歳!ー
4回目も私を退屈させるつもりか、そしてこれが最後であることを神に感謝するーああ、今すぐ終わらせてくれ、頼むから!ーわかったか、これもブラボーか!ー
ブラボー!ーああ、羊の鳴き声だー終わったのか!ー天に感謝だ!ー
もういい、もういい!
Maynard Solomon『Mozart: A Life』より抜粋
訳;夏目ムル
ロンドの後は、アレグロ が来るんだけれど、
僕の楽譜にだけ、アダージョ なんて書いてさ笑
音符にも、青、赤、緑、黒のインクでいろいろ好きに書いて、
最後には楽譜に
「ロバ、牛、愚か者のロイトゲープを憐れんで、ウィーン、1783 年 5 月 27 日」
って書いたんだよ。
まったく、あいつ・・・
でも、憎めない可愛い奴なんだ。
冗談ばっかり書いているけれど、
作品は皆さんご存知のように、本当に素晴らしいよ。
僕は以前は「ウィーンで最も上手いホルン奏者」
なんて言われていた頃もあったけれど、
50歳を越えた最近は、高音はちょっと厳しく感じてね。
そんな僕のことを考えてくれたのか、
吹き易くて、すごく気に入っています。
それでは、モーツァルトのホルン協奏曲第1番ニ長調K.412/514を
お聴きください。
演奏は、ホルン独奏ラデク・バボラク、指揮ダニエル・バレンボイム、
ベルリン・フィルーハーモニー管弦楽団の演奏です。
Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
いかがでしたか。
番組は、ほぼ日更新。名曲の、目から鱗のエピソードが語られていきます。
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