ドラマ「GTOリバイバル」に出演して起きた変化
実生活で父を早くに亡くした当事者でありながら、俳優として「幼い子を残して先にゆく母親の役」を演じた。すると心境に変化があったので記しておきたい。
今年4月放送の反町隆史さんが主演の「GTOリバイバル」という高校が舞台のドラマで、わたしは生徒役の八木莉可子さんが演じる市川すずかの母であり、
すずかの父である鈴木浩介さんが演じた市川晃一の妻である“市川里恵”という役をいただいた。
里恵は娘が小学校にあがる前後で病気がちになり、闘病のすえに亡くなってしまう。
重要な回想シーンでの参加ということもあり、監督をはじめ制作チームの方々が事前に丁寧にセッションしてくれたのが、とてもありがたかった。
劇中での出番は多くないものの、現在を懸命に生きる父子の心のなかで、いまでも大切に愛される家族として存在し、俳優として多くの学びを得た現場だった。
作品全体としても熱く、深い勇気をもらえるようなメッセージ性を私は感じたので、見逃した方はぜひ配信でご覧ください。
さて、冒頭の件。撮影の合間、わたしは心のなかで、亡くなった自身の父にこんな風にずっと話しかけていた。
-ねぇ、パパ。わたし今、俳優をしているんだけどね。
役として、これから子どもを残して先にいってしまうんだ。辛いね。やりきれないね。
あなたもこんな気持ちだったの?-
故人への応答のない語りかけだけれど、問うたびに心のなかにじわりと広がるものがある。
亡くなった当時、40代だった父の心境に、30代の今のわたしが役として近づいてゆく。
父も子供のあらゆるライフイベントを目にすることができず、意思疎通ができない状態が7年ほど続き、闘病のすえ亡くなっており、私は15歳だった。
もちろん心情や状況は人それぞれなので、胸のうちが完全に一致することはあり得ないのだけれど、イメージのなかで、わたしと父の気持ちがミルフィーユのように折り重なっていく。
それを経て、役としても、また新たな発見と表現が見つかってゆく。
そして美術品とセットの持つ力というのは偉大なもので。
余命宣告を受け、娘の入学式に参加できずに、病床から里恵がなんとか微笑んで娘を送り出すというシーン。
貧しさのある室内の片隅に、里恵が着ていく予定だったであろう、上品でフォーマルなベージュのスーツが掛かっているのが視界に入った。オンエアされた劇中では、それが映ることはなかったのだが、
その瞬間、
残された寿命に対して、少しずつ受け入れようとしながらも、
愛する者のために運命に抗う強い気持ち。
まだ生きていたい、子供の成長を何とかしてでも見守り続けたい。
このような、役としての感情が、ぶわっと溢れ出てきて、涙がこぼれていった。
カットがかかった後もしばらく涙が止まらず、メイキングに収録されているであろうクランクアップの挨拶では顔面が濡れて大変なことになっていると思う。
このようなアプローチが俳優として正しいのかどうかはわからない。けれど、今回の役を通して、わたしは自身の経験と重なる部分があったことでセラピーのような効果があった。
また、芸能界において、自信をなくしてしまうような出来事も多いなかで【俳優として高みを目指してゆくことを諦めないこと】。
その夢に鍵をかけないで追いかけ続けることに、改めて許可をできるようになったのだった。
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