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【詩】「Dear (Another Words)」

疲れた顔で眠るアナタたちをふと目覚めた夜中
薄明かりの下で見つめると僕のどこかが痛くなる
アナタたちが僕の年齢の時はこの未来を予想していたのだろうか?
訊ねたいけど訊ねられない質問の一つだ

昔見上げたアナタの姿を今は見下ろしている
そして僕の瞳も色々なことを知るようになっていた
色あせていく輝きを時間はゆっくりとアナタに刻んだよ
いつの間にこんなにアナタの背は丸くなっていたのだろう

僕も無邪気に笑ってばかりはいられなくなったし
アナタもいわば綻びというものを隠しとおすことは出来なくなっていた
僕がどれだけ耳を塞いでもその真実は隙間を縫っていった
アナタを憎んでいないと言うのも正直言って嘘だろう

だけどアナタは僕をここまで育ててくれた
どれだけ抗ってもどれだけ自分を騙しても
その事実がある限り僕はこの絆を否定することはできない
返しきれない「借り」を僕は持って生きている

 人は無意識に悔やみを持って誰かを愛し憎むのだろうか
 この世に生を享けたことで僕たちは「子」となった
 それは罪なのかそれとも功なのか答は見えないけど
 その刻印は一生意識の下で蠢いているようだ

昔つややかだったアナタの髪も白さが増えている
時々黒く染め直しているアナタの姿を見ると何故か哀しくなる
椅子に座ってTVを横目に静かに窓の外を見ているその姿も
いつからその身に合わせて小さくなっていたのだろう 

ねぇ 僕はアナタたちの「子」でよかったかな?
アナタたちがはっきりとは言わないけれど望んでいる未来を
なかなか選び取ろうとしないそんな臆病者な僕でよかったかな?

アナタたちは「愛」を何と呼びかえるのだろう
それとももう呼びかえてしまってのこの暮らしなのだろうか
いつか僕かアナタたちのどちらかが手を振るだろう
そのときに僕はどれだけの後悔を減らすことができているだろう

どんな形で別れが来るのかはそれが訪れるまで分からない
アナタたちが望んだように願ったように僕は生きてこれなかったかもしれない
「何でそんなこと言うんだろう」とこぼしていたことも知っている
アナタたちが望むように願うように僕は過ごせないかもしれない

ただそれでもこうして単純になりきれない心を持って
ただそれでもどこかが壊れそうな脆い感情があって

ねぇ 今日も僕はそっけない言葉で過ごしている
アナタが精一杯おどけて僕に「ありがとう」と言ってくれたのに
アナタが大袈裟に拝みながら僕に「ありがとう」と言ってくれたけど

ねぇ こんな僕だけど
やはりアナタたちを愛しているんだろう
ずっとアナタたちを愛していくんだろう

そしてずっと「ありがとう」と想いつづけていくんだろう

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