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【八犬伝】アクション映えする勧善懲悪ファンタジー×才能あふれる老爺の友情物語

公開されてからずっと気になっていた八犬伝!江戸時代の歌舞伎俳優を現代の歌舞伎俳優が演じていると聞いて慌てて観に行きました。すると、これが予想以上におもしろくてですね…!語りたいエピソードがあふれ出てしまったのでまとめておこうと思います。

がっつりネタバレあります!まだ観ていない人はお気をつけて!

冒頭はCG使いまくりのゲームテイストな映像。観客の年齢層が高めな時代劇では珍しい作りだなと思っていたら、なるほど、これは物語の中の世界でしたか。

この映画では、「八犬伝」という物語の中身を描いた【虚】のパートと、「八犬伝」の作者である曲亭馬琴の実生活を描いた【実】のパートが入れ替わりながらストーリーが進んでいきます。それがとてもおもしろかったです。

「八犬伝」パートでCGをふんだんに使っているのは、「これは【虚】の世界だよ」ということを強くアピールしたいということかなと思いました。馬琴自身が「読者が許す範囲で嘘を散りばめていく」と言ったように、衣装も不自然なくらい豪華です。でもそれが八剣士のヒーロー感を盛り上げていて見ごたえがありました。

しかも今回、八犬士が旬のイケメン揃いなんですよ。映画のグッズも馬琴や北斎ではなく八犬士のビジュアルを使ったものが多く、売れ筋をわかっているな~と感心しました。ちなみに私は犬坂毛野役の板垣季光人さんが好きです。女装姿も美しかったです。

登場人物相関図
『八犬伝』公式サイト(https://www.hakkenden.jp/#cast)より引用

あと、信乃が持っていた刀が「村雨」だったのは、斬らないといけない相手が怨霊だったからでしょうか。「村雨」は馬琴が作った架空の刀みたいですが、モチーフは妖刀と名高い「千子村正」なのかななんて思いました。

もちろん、【実】パートは【実】パートですごくおもしろいです。

まず、曲亭馬琴が書いた小説に葛飾北斎が挿絵をつけるだなんてそんな贅沢なことあります!?しかし、これは公式に出ている絵ではないので私たちは見ることができないのです…。無念…。

「八犬伝」に挿絵を描いてほしいという馬琴の頼みを、北斎は28年間断り続けます。代わりに婿を挿絵画家として紹介するんですね。それでいて、誰よりも先に馬琴から「八犬伝」の構想を聞き、即興でイメージ絵を描くということをくり返します。もちろん馬琴はこの絵が欲しくてたまりません。でも、北斎はササッと描いて一瞬だけ見せると、すぐ捨てちゃうんですよ。なんてもっっっっったいない!!!!!!

しょっちゅう馬琴の家にやってきては何時間もおしゃべりをしたり、馬琴の背中を下敷きにして絵を描いたりする北斎はかわいかったです。北斎先生、馬琴の事大好きだったんですね。馬琴は馬琴で、しばらく北斎が訪ねてこないとちょっと寂しそうなんですよ。

そんな2人をよく思っていなかったのが、馬琴の妻・お百です。恐妻家っぽいお百ですが、実際は寂しかったのかなと思いました。馬琴と北斎はいつも芸術家同士でわかりあっているのに、いつも自分だけ蚊帳の外だと。しかし!お百が息絶えるシーンでお百の寂しさがもっと深いものだということに気づきました。

お百もお路と同じように読み書きがほとんどできなかったんじゃないかと思うんですよ。だから一度も「八犬伝」を読んだことがなかったのでは…?馬琴が戯作者としてどんどん有名になっていく一方で、字の読めないお百には馬琴が評価される理由がわからないことが寂しかったのでは…?それが「私は無学だから!」という怒りにつながっていたのでは…?と思いました。

しかも、これまでは「女だから仕方がない」という言い訳ができていたと思うんですよ。お路も「自分はいろはしか読めない」と言っていました。でも、そのお路が漢字を覚えながら馬琴の代わりに「八犬伝」を書くようになってしまった。それがお百さんにとってどれほどの絶望だったか。

息子の宗伯が馬琴の校正をしていた時はまだよかったですよね。同じ家族だけど、宗伯は男だから。でも、お路はお百と同じ女なのに。馬琴のすごさを理解できない側のはずだったのに。そんな気持ちが、お百が亡くなる前の「ちくしょう」という言葉に詰まっていたのかなと思いました。

この辺りの女心を馬琴先生は気づいているのかなぁ。気づいていない気がするなぁ。

そして【実】パートで語らずにはいられないのが、歌舞伎シーンです。実は私が初めて見た歌舞伎は、「南総里見八犬伝」の浜路が殺されるシーンと八犬士が揃うシーンでした。それもあって今回の映画が気になっていたんですが、まさか江戸歌舞伎のシーンもしっかりあるとは!

しかも七代目市川團十郎を中村獅童さんが、三代目尾上菊五郎を尾上右近さんが演じているんですよ!リアル歌舞伎役者ですよ!当時の歌舞伎劇場を再現した小屋も隅々まで映っていて、江戸時代の歌舞伎ってこんな感じだったのかなと想像が膨らみました。

そして奈落の下で馬琴&北斎と鶴屋南北が出会うシーンね!お互いに存在は知っていながらも話すのは初めてな芸術家同士がバチバチするシーンね!ここも見ごたえ抜群でした。歌舞伎ファンとしては三代目尾上菊五郎の楽屋訪問シーンも観たかったですが…。馬琴先生、怒って帰っちゃったから…。

「八犬伝」は、【虚】で描かれるアクションでスッキリしつつ、【実】で描かれる人間模様に涙するいい映画でした。2時間40分という長丁場でしたが、観終わってみるとあっという間です。話もかなりわかりやすいので、馬琴って誰?八犬伝って何?という人でも楽しめると思います。悪者はわかりやすく悪者だし、正義の味方は必ず報われます。どんでん返しとかないです。

そして、改めて「南総里見八犬伝」https://amzn.to/4huQssLを読み返したくなること間違いなしです。名作って時を超えてもおもしろいのがすごいですよね。

ちなみに映画の原作は山田風太郎の「八犬伝」です。映画を観終わったら小説でも「八犬伝」の世界を楽しむのがおすすめ。映画化しきれていない細かい設定やストーリーもあっておもしろいです。

小説の「八犬伝」はkindle unlimitedでも読めますよ!

映画をまだ観てない人は映画もぜひ!


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