雑感読書記録 夜半楽

『夜半楽』(やはんらく) 中村真一郎 著

浅草橋にある書肆スーベニアの100円コーナーで見つけた。中村真一郎の作品はこれ以外に『四季』と『夏』、『死の影の下に』を手にとっているが、読破は『四季』のみ。彼の白昼夢を見たかのような幻想的かつ独創性高い文章は、文章に浸る余裕があるときは良いのだが、そうでないときは読み続けるのが非常に困難となる。彼の文章の良さを分かっているから読みたいのだが、一冊読み通すのはなかなか難しい。

こうした心の煩悶を抱えていた時に、絶版の多い彼の作品の中でもなかなかお目にかからない(気がしている)一冊を見つけたのだった。しかも、彼の作品にしては薄いため、これを読破できなければ私が中村の作品に触れることは金輪際ないだろうとすら感じた。そのため、手にしてから読み始め、読破するまではかなり集中的にこの本を読んだ。普段、複数の書籍を同時並行的に読むのが私の読書様式だが、今回は一冊を集中的に読み、見事読破することができた。これで今後も彼の作品を手に取ることができる。

肝心の内容だが、正直、そこまで面白いとは感じなかった。というのも私がこれ以前に唯一読破した『四季』ほど、文体が洗練されていないと感じたこともあるが、物語もある種ありきたりなものに感じたためであった。

過去の戦争体験や親しい人間あるいは恋心を寄せた人物の自殺が主人公の心に孤独と深淵をもたらし、過去の辛い経験の数々が彼の人生に暗い影を落としている。同時代の、というか、私がよく読む福永武彦の小説にもそういう話が多く「ああ、そういうパターンか」と半ば呆れつつも「そういう話が好きなんだけどね」と思いながら読んだ。そもそも、純文学なんざ大抵はそういう話なのだから「ありきたり」とかいう指摘はナンセンスかもしれない。

だからこそ、『四季』のような過去と現在の思考が行ったり来たりするにも拘わらず、破綻することのない文章を読んだ際の驚きは『夜半楽』にはなかったのが、少し残念に思った。彼の文章の独自性を強く感じることはなかった。

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