煽動しているようにしか見えない
悪意が、悪意としてではなく、伝播するとしたら、それは仮に悪意でなくとも、悪意を感じさせるようなものではなかろうか。
少なくとも、私の目にはそう見える。
あの子のことが嫌いか、と問われたなら、迷いなく嫌いと答えるであろうし、これまでのことを話せ、と言われたなら、なんの遠慮も躊躇もなくすべてを語ることもする。
ただ、それは私の目から見ている彼女であって、必ずしもそう思っていない方がむしろ大半を占めていることに、ため息はつくものの驚きはしなかった。
それも、彼女からしたら私は親友らしい。
そんな親友である私がこんなだから、周りからは「なんでそんな顔してるの?」なんて言われることも茶飯事だ。
それでも、私が彼女について気持ちが変わるわけでもないし、態度を変えるつもりもない。
それがたとえ、私から見た彼女の姿だとしても。私だけが見えている彼女だとしても。
とても、うまいと思う。取り繕うのが、相手の心に入りこんで好かれることが。
けれど、私は知っている。
彼女の本質。
それが、私の嫌いな根幹をなすところで、疑問が絶えず、巻きこまれたくないとも願う。
どうでもいいことに何らかの理由をつけて、ことを大きくしてしまうのだ。
それもわざわざ敵対するように双方に発破をかけるようにして。それでもお互い、気がつくこともない。
煽動しているようにしか見えないのだ。
そうして自分は外からそれを見て楽しんでいる。ように、私には見える。
それに悪意はないのかもしれない。悪いとは思っていないと思う。本心から、そう思うから、そう思う。という、ただそれだけの理由で、どうでもいいことに火をつけて、周りを巻きこむ。勘弁してほしい。
そうして私は今、まさしくその渦中に立たされていた。煽動ーーいや洗脳されたみなさんは鬼気迫る顔で私を取り囲み、罵詈雑言を浴びせてくる。
唯一、彼女だけが私を庇って泣きながら「そんなこと言わないで!」と、切実に訴えているのだ。迷惑極まりない。それがこの罵声を産んでいることに気がついているのか、いないのか。
私は、それでも、彼女に対する気持ちを変えることはないし、態度を変えるつもりはない。けれど、どうしたらこの状況を乗り越えることができるだろう。
私しか見えていない以上、何を伝えたところで理解されることはないと思う。実際に、彼女は私のほうを庇い、味方についているわけだから。もちろん、けっして味方ではないのだけれど。
本当に、うまいと思う。困ったものだ。
残された手は何であろう、と手札を眺めながら、蛇のようにねっとりとしたかわいらしい笑みを浮かべる彼女の顔が浮かび、私はため息をついた。