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まやかし、なのか

 それは、一瞬の出来事だった。

 いつもの帰宅道、自転車を転がしている。

 この時期、仕事後ともなるとあたりはすっかり真っ暗で、街灯と月明かりだけが頼りの薄暗さが何ともいえない。

 高架下を抜けて、まっすぐの山にさしかかるような坂のほうではなく、右に折れて細長い道路へ進路を変える。以前はその坂道を自転車で駆け抜けていたが、今はそんな体力などない。その細い道路を走り、少ししたら歩道に乗って、すぐの坂道を自転車を押して歩けば、すぐに家だ。

 そうしていつものように道路を走り、歩道に乗ったーーその瞬間

 私の目に飛びこんだきたのはまっしろな蛇の姿だった。

 それは、一瞬の出来事だった。

 白い蛇が歩道のほうに出ようとした瞬間だったらしい。私が歩道に自転車を上げたとたんに通るものだから、避けることもできず、あっ、と思う間にちょうど頭の下、首、とでも呼べばいいのだろうか。そこを引き抜いてしまった。

 私は慌ててブレーキをかけて、後ろを振り返る。引く直前に目があったような気がして、どきりとしている。

 しかし、そこには蛇はいなかった。

 辺りを見回してみても、影も形もない。

 あるのは、一筋の白く濁った液体だった。

 坂上の家から伸びる排水管からその液体は降りてきていた。私はそれを、白い蛇、と違いしてしまったのだろう。

 私は蛇を轢き殺していないことに安堵しつつも、あの、妙な、リアルな、感じは、なんだったのであろうか、と寒気を覚えた。

 それは、本当に、幻だったのであろうか。

 しばらく佇んでみても、何も変わらないその光景に、自転車を押して坂道を登る。

 そうして背後から感じる気配にむしろ、その白い蛇は、私に轢き殺された瞬間に、水に姿を変えたに違いない、と思った。

 まとわりつくような重さを感じる足を必死に動かしながら、何か、間の悪い縁が待ち受けているであろうことを、脳裏に残る蛇の顔から、感じざるを、得なかった。


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ふみ
いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。