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【映画感想103】そばかす/玉田真也(2022)


100本目指して週2回映画の感想を更新している描きです。今回は映画館で玉田真也「そばかす」を観ました。

【あらすじ】
30歳の蘇畑佳純は、これまで誰にも恋愛感情や性的な欲求を抱いたことがない。嫌でもなく苦手なのでもなく、ただそれが何なのかがわからない。
周りから恋愛や結婚のプレッシャーをかけられ、じわじわと真綿で締められるような疎外感に追い立てられながら、自分が本当に欲しいものは何なのかを考えていく。

【ネタバレなし感想】
(おそらく)アセクシャルの主人公が自分の意思で恋愛を「しない」映画。
「こういう映画が欲しかった」という人はいるんじゃないかと思います。

三浦透子さんをはじめ主演の女性陣がとてもよかったです。(主題歌の歌声もよかった)

エンドロールをみて前田敦子!?!?
とびっくりしたのですがはまり役でした。
かわいかった。

わたしは恋愛にヘイトがあるわけではないのに邦画の恋愛映画がなぜか苦手なのですが、たぶん恋愛も結婚もして当たり前の素晴らしいものである、という暗黙の了解のような空気が洋画よりも強くて息苦しさを感じるからなのかなあと見てて思いました。
あんまり日本は外国と比べて〜とかは言いたくはないですが、邦画のほうがこの空気感がちょっと強い気がする。
(日本に住んでるから画面から必要以上に感じ取ってしまうのかもしれない)

ちなみにわたしの話になりますが、母は会社勤めが1番「正解」だと思っているので、絵の展示や依頼の話をすると必ず「きちんと仕事をしてるからしっかり空いた時間で集中できるのね」と毎回言います。
悪気はなく純粋にわたしのしあわせのために「会社を辞めないでほしい」と言っているのはわかっていて、ただなんかそう言う「言ったところでこの人とってはそれが常識だから理解はできないんだろうな」という諦めがあって特に否定も同意もする気になれず、今後絵を見せることはたぶんもうない。

恋愛ではないですが、こういう世間一般と自分のズレによる、名状しがたい居心地の悪さをうまく表現している映画のように思いました。

【ここからネタバレ感想】
一言で言うと「いい映画だけど自分と解釈が違うところがある」感じです。

例えば「みんなラーメンが好きだけどわたしは好きではない」ならまだ理解できるのだけど、「そもそもラーメンってそんなにいいものじゃないじゃん?」と続くとといやちょっと待って、となる感じ。

登場する女性陣が、軒並み恋愛において不遇な経験をしているのが気になりました。浮気されたり、浮気されて離婚してたり、合コンで出会った男に遊ばれたりとか。
別に離婚=不幸だとは思わないのですが、ここまで徹底されてしまうとなんとなく「結婚や恋愛がない人生」という選択を肯定したいがために結婚や恋愛を否定しようとしている印象を持ってしまいます。

保育園で「別に王子と結婚したくないシンデレラ」を上映して父兄に子供に歪んだ価値観を押し付けるのは…と苦言を呈されてしまうシーンがあるのですが、わたしはこの指摘は正直一理あると思います。

(「王子様と結婚してハッピー」という他人からの価値観の押し付けに辟易していた主人公が、今度は「王子様と結婚してハッピーというのは馬鹿馬鹿しい」という価値観を同じように子供に押し付けようとしてるので)

「誰もがそれを望むと思うなよ」

という指摘は全然アリで、みしろこの映画の存在意義でもあると思うのですが、肯定のための否定が目立ちすぎてしまったがために主人公が「恋愛や結婚を欲していない人」ではなく「恋愛や結婚に苦手意識のある人」っぽく見えてしまったのだけ少し残念でした。

ここで大事なのって恋愛が素晴らしいものかどうかじゃなくて、とにかくこの主人公がそれを「周りが何と言おうがしたくないし要らない」という気持ちじゃないのかな。

メッセージとして伝えるなら私情混じりの「結婚してめでたしめでたしとかなんなの?」ではなく君はどんな結末を選んでもいいんだよ、というメッセージだけでいいと思うので、あのシンデレラは

①結婚②起業③魔法使いに弟子入り

みたいなマルチエンディング方式にしてもよかったのではないかとも思いました。
ゲームブックみたいに子供の選択肢で展開を変えていくスタイルにすれば「子供の創造性を高めるための工夫」とかなんとかカモフラージュできるかも…いや厳しいかもしれない…厳しいかもしれないけど、こどもたちに恋愛以外の選択肢だって選んでいいんだよとなんとな〜く提示できる折衷案はこれしかない気がする…

恋愛や結婚の煩わしさを経験した上で「この選択をしてよかった」と断言してる人物が主人公まわりにひとりはいてもよかったんじゃないかなーと思いました。もしかしたら結婚を選んだ前田敦子がそんな存在になるんでしょうか?
どっちの道も同じくらい煩わしくて、不幸で、しあわせだよね、という前提のもとでお互いの選択を認めあえたらすこしだけ世界はやさしくなる気がするので、2人がこの先の人生でどんな会話をするのかみてみたかったです。


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