【書評】「痩せない豚は幻想を捨てろ」――たぶんこれは多くの人にとって最後のダイエット本になる
20代の頃はずっとタバコを吸っていたけど、あるときパタッとやめた。きっかけはいろいろとあったが、禁煙した方法はシンプルで「禁煙セラピー」を読むというもの。それだけでやめられた。
不思議とこの本には行動を決定づける何かがある。「読むだけで絶対やめられる」と謳っているだけはあると思った。
なんでだろう。この本を読むと、タバコを吸うのがバカバカしく感じられる。だから吸わないようになる。理由は、わからない。でも同じ人がたくさんいるから、1996年に出ていまだに売れているのだろう。
考えてみれば「禁煙」はタバコを吸わなければいいだけだから、読むだけでやめられるというのはわかる。読むだけで、あとは何もしなければ(そのなかには喫煙も含まれる)、とりあえず成功はするはず。
一方でダイエットはそうもいかない。本を読むだけで痩せることはないし、サプリを飲んだだけで痩せることはない。食事制限をして、適度な運動をしないと痩せない。ややハードルが高い。
痩せない豚は幻想を捨てろ
その点、テキーラ村上さんという方が書いたダイエット指南の書、「痩せない豚は幻想を捨てろ」には確実に行動を促す何かがある。
この著者をご存知だろうか。テキーラ村上、通称テキ村と呼ばれている。Twitterのプロフィールには「ツイッターで最もデブを葬り去った人」と書かれている。
「#テキ村」というハッシュタグにはテキ村フォロワーが日々、ダイエットのビフォア・アフターを写真を投稿しまくっている。
しかもみんないい具合に身体を絞っている。単純に痩せているのではなく、身体を絞っている人が多いように思う。
実は僕もテキ村氏のTwitterをフォローしていて、彼のブログも読んで、そのダイエット法を試してみた。
やってみたら半年で12kg減、でも大事なのはそこじゃない
結果的には6月からダイエットを初めて、11月末時点でマイナス12キロ。体重は81kg→69kgに減った。
けれど、半年で12kg痩せるのは別にたいしたことではない。毎月2kgずつ痩せること自体はまったく難しくない。1日の消費カロリーが摂取カロリーをわずかに上回るだけで達成できる。
驚いたことは、体重が12kg減りながら、筋肉が5kgほど増えていること。つまり、氏の提唱するダイエット法の一番の特徴は、筋肉量を増やしつつ、体脂肪だけを減らすように仕向ける点だ。結果、代謝が上がり、太りにくい身体になる。
が、これは普通にやるととても難しい。
体重を落とすために糖質やカロリーをカットして、有酸素運動を続けるとぐんぐんと体重は落ちるが、しかし同時に筋肉も落ちている。筋肉量が減ると代謝が落ちるので、結果的にリバウンドを生む「太りやすい身体」になってしまう。真逆。
なので筋肉量を維持、あるいは増やしつつ体脂肪だけを効率的に落とす必要があるのだが、これが難しいのだ。
端的にいうと、その難しいことをやってのけるための方法が「痩せない豚は幻想を捨てろ」という初の著書に書いてある。
あ、でも方法自体は氏のブログにもしっかりと書いてある。BCAAやプロテイン、ビタミンBを摂取して、こういう筋トレ、有酸素運動をやったほうがいいよ、と細かく書いてある。
このあたりの記事を読むだけで痩せることはできるし、なんならTwitterでもことあるごとに言ってくれる。
方法論を学んだら、あとは自分で続けられるという人は、ブログだけで十分だと思う。僕の場合は上記のブログに書いてあることをやり続けて、満足のいく結果は出た。
でもわかっちゃいるけどできないという人もそれなりに多い。
身体の仕組みなんて、究極的には「摂取カロリー < 消費カロリー」の状態にすれば痩せるわけだけど、それだけで誰もが上手くいくならダイエット業界そのものが存在しないはずだ。
方法は方法。何より大事なのはマインドかもしれない
冒頭で禁煙セラピーの話をしたのは、この本では「ダイエットをする上でのマインド・メンタル」について、けっこうなボリュームを割いて語られているからだ。
たぶん読んだだけで、太っているのがバカらしくなる。というか、太ったままでいる自分の実行力のなさに笑えてくるかもしれない。なーにやってんだ自分は……と。そのへんが禁煙セラピーを読んだ後の気分に似ている。不思議と心理面にもかなり効き目があるのだ。
テキーラ村上氏のキャラクターはかなりの毒舌だ。厳しい言葉で痛いところをガンガンついてくる。優しく丁寧に、モチベーションを上がるのを待ってくれる、というわけでは全然ない。
読者をときには豚呼ばわりしながら、逃げ場のないところまで論理的に詰めてくる。これを読んだら、どんな怠惰な人でもやる気が出てくるんじゃないかと思う。逆にこれを読んで何も変われなかったら、もう何も効かないんじゃないかという怖さもある。
上のツイートにもあるように、マインドセット、メンタルコントロールの話だけというわけでは、もちろんない。摂取カロリーの組み立て方、正しい運動の仕方など、心技体すべてが書いてある本だ。
テキーラ村上氏の「痩せない豚は幻想を捨てろ」は、現時点でのダイエット本の決定版じゃないかと、ダイエット本の著者の1人として思う。
これから我々は忘年会シーズンを迎える。
年が明けて新年会も一通り終わったころ、人類は自らの脂肪に気づくだろう。
氏の思いがすべての太った人に届くことを祈っている。