読んだ本 2025年2月号 7冊
★★★★★ / スプリントゴールで価値を駆動しよう
チームが価値の提供を最大化するために、スプリントゴールに着目して説く。
スクラムにおいて計画を守ることが価値なのではないことを再確認し、本来の目的を達成してよりよい価値をチームが生み出すために必読である。
★★☆☆☆ / 団塊の後 三度目の日本
『楽しい日本』の出自という言説を見かけたので読んだ。
「地方制度調査会報告によれば、この二つの地域は他と著しく異なる気象条件と広大な領海を抱え、国防的にも重要な位置にあるが故に、自立した自治体であるべきだ、とされています。私はこの南北二つの『道』には、大阪、横浜、長崎と並ぶインテグレーテッド・リゾートを許可すると共に、『観光立国』の方針を掲げて頂き、国際的な楽しみの地域にして頂きたい、と考えています。また、特別地区としての様々な特権・特例の付与をも協議して行きたいと考えています。」...「第一の日本、つまり『明治の日本』は先進諸国に負けぬ『強い国』を目指しました。二度目の日本、『戦後日本』は『豊かな国』を目指しました。そしてこれからはじまる『三度目の日本』は『楽しい国』にしたいと思います」
全体は脈絡を欠いていて、政治的な会話が並び心理的な描写はなく、小説として読むことにも抵抗を感じた。
★★★★☆ / キーエンス流 性弱説経営
潜在的なニーズの言語化や実行の徹底に対するアプローチ、効果のある目的の設定や成果につながる手段を整えるための考え方を提供する。
開発の現場の観点にも徹底されないことがあらかじめ予測できるようなプロセスの設定は珍しくなく、共感できる点は多かった。
冒頭の顧客対会社の関係性はわかりやすい一方、会社のシステムや社員に対するものが何かということが若干わかりづらい。
つまり、性弱説を適用すべき対象とそれらをコントロールする主体が暗黙的に設定されていて、コントロールする主体(読者)に対しては本書でいう性善説を適用している部分があるのではないかと感じた。理想的には、全員が性弱説を前提に考え、それぞれが互いの弱点を補うような構造を作ることが必要なのだろうと思う。
★★★☆☆ / 1%の革命
本書や https://github.com/takahiroanno2024/election2024 を眺めた上で、評価が難しい。手法ではなく結果で議論をすべきではないかとも思う。
議論が開かれていることと Linux カーネルにおけるリーナスのような思想の主体がいることは矛盾しないと思うが、前述のリポジトリ等には妥協の産物や曖昧な議論が見受けられるし、結論に至る経緯や背景の追跡が難しく、大規模な OSS における議論と比較すると脆弱であるように見える。
政策とフレームワークが同じ目線で語られている点も難しさを産んでいるのではないかと思う。
★★★★★ / 自由からの逃走 新版
表題である『自由からの逃走』は読みはじめこそピンとこないが、読み終わる頃には本書の主張を短く表す的確な表現であることがわかる。示唆的で名著。
本書は近代人の性格構造についての、また心理的要因と社会的要因との交互作用という問題についての、広範囲な研究の一部である。...私は、心理学者は必要な完全性を犠牲にしても、現代の危機を理解するうえに役立つようなことがらを、すぐさま提供しなければならないと考えるのである。
個人の知的で感情的な表現としての自由を抑圧する、歴史的、社会的な要因については以下のように記述される。
たとえば社会集団における破壊的なサディズム的な衝動のようなものも、やはり非合理的な、そして人間の発達にとって有害な社会的条件にたいする動的な適応である。
記述は、歴史的には宗教改革の時代からはじまる。
神はその救済のための本質的条件として、人間の完全な服従と、自我の滅却とを要求した。...それは国家とか「指導者」にたいし、個人の絶対的な服従を要求する原理と、多くの共通点をもつ解決方法である。
中世社会の伝統的な絆から自由になった個人は、近代的産業組織のもとでは自立はしているが、同時に孤独な存在になったと評価される。
近代人の孤独感、無力感は、彼のあらゆる人間関係のもっている性格によって、さらに拍車をかけられる。個人と個人との具体的な関係は、直接的な人間的な性格を失い、かけひきと手段の精神に色どられてしまった。
現代社会においては、個人は文化的な鋳型によって与えられるパーソナリティを受け入れ、「私」と外界との矛盾をなくすることで孤独や無力から逃避し、権威にたやすく従属すると評価する。
マゾヒズム的努力のさまざまな形は、けっきょく一つのことをねらっている。個人的自己からのがれること、自分自身を失うこと、いいかえれば、自由の重荷から逃れることである。
かれはじっさいには天気についてほとんどなにも知らないのに、非常に多くのことを知っていると思いこんでいる。かれはどんな質問にも答えなければならないと感じている。...その意見はラジオの予報と一致している。かれにその理由をきくと、風向きや温度でそう考えたと答える。
続けて、現代デモクラシーを理解するためにナチズムの分析が行われる。
サディズム的傾向もマゾヒズム的傾向もともに、孤立した個人が独り立ちできない無能力と、この孤独を克服するために共棲的関係を求める要求とから生ずる。
最終章では著者らの立場が明確に示されている。
われわれはどのような外的権威にも従属していないことや、われわれの思想や感情を自由に表現できることを誇りとしている。...しかし思想を表現する権利は、われわれが自分の思想をもつことができるばあいにおいてだけ意味がある。
物質的財産の所有であれ、感情や思想のような精神的な能力の所有であれ、所有そのものにはなんら純粋な強さはない。...新しい安定はダイナミックである。...それは人間の自発的な活動によって瞬間ごとに獲得される安定である。
★★★★★ / ROIC経営 稼ぐ力の創造と戦略的対話
コーポレートガバナンスに対する機関投資家の一番の期待は、中長期的な視点から見た資本生産性の改善であり、投下した資本に対するリターンを持続的に創出することである。
ROIC が WACC を上回っていれば、資本提供者にとって価値が創造されていると言える。
資本コストと比較をして投資効率を測ることができる ROIC の活用方法や他の指標との比較、フロー経営との比較、事業の目標設定のプロセスへの活用方法などを解説している。
定義や活用方法だけでなく前提の説明も丁寧に書かれているので初学者でも読み進めることができる。
★★★★☆ / 攻撃 1: 悪の自然誌
濫用されることの多い流行語になってしまったダーウィンの「生存競争」という言葉に出会うと、たいていの場合、誤って、異なった種の間に起こる闘争のことだと思ってしまう。だがじつは、ダーウィンの考えた進化を推し進める「闘争」というのは、何よりもまず、近縁な仲間どうしの競争のことなのだ。
1973年にノーベル生理学医学賞を受賞したコンラート・ローレンツの著作。
動物(本書では主に魚や鳥)の攻撃性の傾向や役割などについて述べている。『攻撃 悪の自然誌』の訳本は2冊に分かれていて、本書はその前半である。ローレンツの主張の理解には全体を読む必要があるので、後半を入手した際に感想を書きたい。