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老親と通販、お客様専用窓口という彼岸

#推したい会社

#推したい会社 の企画投稿が始まったと聞いて、真っ先に頭に浮かんだ会社がある。

けれど、その記事を書いていいのか、わるいのか、
わからなくて少し悩んだ。

端的に言えば、
僕が記事を書いたことによって、僕が思っているのとは別角度の影響(具体的には思いつかないのだけれど言うなれば何らかの迷惑)が生じやしないかどうか、

まあ、僕がnoteで記事を書いたくらいではそもそも社会に対しての大きな影響はないだろうが、それでも。

それでも、と思って、
やはりそこに対しても、それでも、と思った。

僕の記事が何かに影響を与えるようなことはないだろうが《それでも》迷惑がかからないか心配である、
《それでも》僕はあの会社への感謝を表明したい。

2番目の《それでも》に軍配が上がった。
僕は記事を書くことにした。


ま、何か問題があったら記事は下げます。
というわけで目次です。


僕が推したい会社、それは、
《株式会社ジャパネットたかた》さんである。

そう、あの日本中が知っていると言っても過言ではないだろう創業者髙田明氏が一時代を築いた通販最大手のジャパネットだ。


何があって、どう感謝しているのか、なにゆえに推し会社と言われて筆頭で浮かぶのかを語る前に、現在の僕の状況というものを以下に並べたい。
ジャパネットさんに関係のない話が少し続く、
しばしお付き合い願う。


一人暮らしの老父という存在

ちらほらとここでも書いているけれど、
一人暮らしの父が倒れた。
昨年の12月のことだ。

正確には倒れた、とも少し違ったのだが、
とにかくその知らせを受けて、僕と僕の兄弟は父のもとに集合した。
僕は月に数回電話や手紙でやり取りをする程度で、兄弟に至っては半絶縁をしている父であったが、いかに問題がある人間だと思っていても、倒れたと言われれば放置することはできない。

久しぶりに足を踏み入れた父の家は一見したところ大きな問題は無さそうに見えたが、よくよく調べてみると様々な問題が浮上してきた。


まず、光熱費が支払われていなかった。
よくわからない通販や定期購入のサプリメントなどが溜まっていて、支払われたのか支払われていないのかもわからない状況だった。
何かわからないカード会社からのブラックリスト入りの通告。
役所の納税課から電話がかかってきている痕跡。
通帳を見れば、数ヶ月前から記帳がされておらず、
状況を調べるために記帳してみたら、直近の仕事で入ってきた収入は一瞬で様々なものの引き落としで消えて残高が900円になっていた。

これらの債務をまず把握するところからしなくてはならず、債務整理をするにしてもその資金をどう考えたらいいのかで兄弟で頭を悩ませた。
兄弟には兄弟の暮らしがあり、僕のほうは僕のほうで、すでに母を扶養している。これ以上は手一杯である。

父は命には別状はないものの、病院に予後の観察で出向かねばならず、また、整理をつけた後の父の今後の暮らしを立て直すためには、行政にもなんらかの支援や相談窓口がないかの確認に行く必要があった。
僕ら兄弟は各々動ける日は全て父関連の用事に使った。
父が救急搬送をされた日から約1ヶ月が経過するが、正直に言えばここひと月休みはない状態だ。
そしてこれらはまだ何一つ片付いていない。いつ終わるのかもまだ予測がつかない。

予定外のストレスと休みなしのスケジュールが祟ったのか、兄弟はまんまとインフルエンザにかかり、年末の父絡みで一緒にやる予定だった用事は僕が一人で引き受けることになった、仕方がない。
兄弟もギリギリだっただろうが、僕もかなりギリギリの精神状態だった。

そんな状況で、
僕が父のもとに出向くと、
父の家のリビングに、真新しいピカピカの大きな段ボール箱が置かれていた。

家庭用高圧洗浄機、ケルヒャーだった


家庭用高圧洗浄機、ケルヒャー

ケルヒャーは父の好きなブランドだ。
僕がまだ幼い頃は、父はケルヒャーの素晴らしさをよく説明して、手に入れたそれで家の外壁や車の掃除なんかをしていた。ただそれも扱いきれずに飽きるまでの、ごく短い時間であったのだけれど。


そのケルヒャーが、ある。

ただ昔のものではない。

どう見ても新しい。

繰り返すが父の銀行口座の残高は900円である。


父にこれはどうしたのかを聞くと、一言、

「買った」

と言われた。



買った。

なるほど。

支払いは、どうするのか。


僕は頭が真っ白になった。


とにかくこの日は父を連れて出ねばならない用事があり、僕は父を連れて出かけるしかなかった。
外にいる間、僕の頭の中にずっとケルヒャーの黄色い箱があった。

どうすればいいんだろうか、と。

僕は混乱していて気が付かなかったが、僕のグループLINEでのSOSを受けて、僕の母(父の元妻でもある)がジャパネットのオリジナル商品ではないか、と指摘してくれた。
確かに、撮影した箱にはジャパネットの文字がある。
リビングのテーブルを見回したが、注文書や納品書、請求書のようなものを見つけることができず、どこから買ったのかもわからない状態だった。


父は、あのケルヒャーの支払いどうしようか、と呑気なことを言っている。

僕は、父に「欲しいものを欲しいというだけで購入できる状況ではない」ということを説明し、買ったばかりのケルヒャーは返品させてもらうと言った。ごねるか、悪ければ暴れる可能性も覚悟しての提案だった。

父は、お金がないということに初耳のような顔をして驚いていた。
そして思いの外すんなりと返品することを聞き入れた。
ただ、最後まで惜しそうにしていた。

とはいえ父の説得はできても、
実際に返品ができるのか、それが問題だった。
聞けば昨日到着したばかりだというが、箱の開封はしてしまっていた。

それでもケルヒャーは返品するしかない。

父が頼んでしまったものと同じものなのかはわからないが、ジャパネットさんの公式サイトに3万円くらいするセットが載っていた。
これだとしたら、とてもじゃないが購入することができない。

どうやって返品すればいいのか、とにかくジャパネットさんの問い合わせ先に電話するしかない。


ジャパネットたかたさんに電話する。

僕は恐る恐るジャパネットさんに問い合わせた。
父はジャパネットさんの通販を何度も使わせてもらっていたので、なにか会員ナンバーのようなものがあるのかもしれないが、僕はそれらは知らないままだった。

問い合わせて出てくれた方に、購入者本人ではないこと、おそらく購入したのではないかと思われる品物があるが、それを返品したいことをお伝えした。
購入者の名前と住所をたしか聞かれたと思うが、それだけの情報で、あっという間に昨日到着している高圧洗浄機が一番直近の購入商品であることがわかった。

やはり、ケルヒャーはジャパネットさんで買っていた。
昨日届いた、というのも間違っていなかった。

僕は開封してしまっているけれど、開封のみで品物は出していないこと、未使用であること、可能であれば返品を希望したいことを伝えた。

「かしこまりました。それでは返品を承ります」
と、電話口のスタッフさんが朗らかな調子で言った。

返品を、

承る。


僕は、どっと力が抜けて座り込みそうだった。
数時間ずっと頭を抱えていた問題が、たった一言で解決してしまった。

いいんですか、返品できるんですか?と重ねて聞いてしまったと思う。

スタッフさんは僕の前のめりな調子にも戸惑った様子はなく、返品が可能であることを繰り返して教えてくれた。

また、
返送代だけかかりそれは購入者の負担になること、
そのための配送スタッフは希望日に自宅まで来てくれること、
伝票の用意の必要もないこと。
開封してしまった部分は普通のガムテープで止めてしまって構わないこと、を説明してくれる。

本気で力が抜けていった。

伝票や返送の手配を考えたら何時までに終わらせないとならないかとか、そういう計算もずっとしていたから。

ほっとしすぎて電話口で泣きそうになっていると、
スタッフさんが申し訳なさそうな声で、

「ただ、ご返品の理由など差し支えなければ教えていただけますでしょうか」

と言った。

それはそうだ、商品に問題があったわけではなく、こちらの勝手な理由で返品の迷惑をかけているのだ、これは答えなくてはならない。

でも、どう答えようか。
なんと言って説明すればいいのだろうか。

僕は一瞬頭の中でいろんなことを考えた。

考えたが、どんな言い訳も通用しない、と諦めた。
諦めて、僕はそのまま話した。
至らなさを世界に白状するような気分だった。

ここは一人暮らしの老親の家であること、
自分は一緒に暮らしてはいないこと、
親に収入がないこと、
にも関わらず今日様子を見に来たら商品を購入してしまっていたこと、
この商品自体には何の問題もないが恥ずかしながら購入するお金がどうしても用意できないこと。

電話口のスタッフさんは、「さようでございましたか……」と静かに、丁寧に、話を聞いてくれた。

そうして次に言われたのが概ね(記憶を辿って書いているので細部は違うかもしれないけれども)、
下記のような言葉だった。

「ただいまお伺いしましたご事情に関し、もし、お客様がよろしければ、専用の窓口におつなぎさせていただきたいと思うのですが、いかがでしょうか」


専用の、窓口?


「専用の窓口が、あるんですか?」
「ございます」
「専用のというと、こうやって一人暮らしの親がジャパネットさんのお品物を買ったりすることに関して、その、家族が相談できるとかそういうことですか」
「さようでございます」



なんだそれは

予想外の展開に、僕は状況がうまく掴めないまま件の専用の窓口につないでもらうことになった。



お客様専用窓口というサービス

そうして専用の窓口に繋いでもらって知ったのが、
ジャパネットさんのサービスだった。

家族が説明しても必要以上に買い物をしてしまおうとする人間がいる場合、一旦は注文を受けたフリをして、その後、任意の家族に商品の注文が入ったこと、このまま購入するのかキャンセルしたほうがいいのかの判断を聞いてくれるというのだった。

注文を受けたフリまでしてくれるんですか、と言ったら、そうですね、そうさせていただいています、と穏やかに言われた。

ただし商品が届かないことに本人が疑問を持ってしまった場合は、問い合わせが来たら、「ご家族がキャンセルされました」とジャパネットさんは答えることになるので、その点は事前にキャンセルしたことを説明しておくなりなんなり、あとは身内でやり取りをするように、とのこと。

それくらいはもちろんします!させていただきます!


なんだこのサービスは。

そんな聞きようによっては失礼な言葉を頭に浮かべながら、
僕は平身低頭の心持ちで何度も何度も専用窓口のスタッフさんにお礼を言った。
連絡が来るのは僕の携帯電話にしてもらった。
品物が注文されたことを、ジャパネットさんが僕に知らせてくれるときの電話番号も教えてもらったので、すぐに自分のスマホに登録をした。

返品商品を取りに行く場所は購入者である父の自宅で構わないか、という確認もしてくださっている。
品物を別の場所に運んでいた場合は、そちらに取りに行くこともできるのだそうだ。
おそらくこういった場合、購入者が使ってしまわないよう、家族が別の場所に隠したり、自分の家に運ぶ必要があるケースもあるのかもしれない。

今回の我が家の場合は、父が自分で訪ねてきた配送業者に返送代を支払って荷物を渡すのは自力でやってくれた。

それにつけても、

本当に、

なんだこのサービス。

必要以上に通販を頼んでしまう家族の注文を本当に必要なのかほかの家族に確認する。

こんなサービス、ジャパネットさんには一銭も入らない。

時間と労力がかかるだけだ、
それでも、専用窓口が存在している。
してくれている。


老親と通販問題は他人事ではなかった。

僕はあまりにもホッとしてしまって、
そして感謝の念が収まらず、ほうぼうでこの話をさせてもらっている。
すごい、凄すぎるよジャパネットさん。

そうして、同じような悩み、
過剰に通販を購入してしまう年老いたあるいはなんらかの疾患を抱えたご家族がいるケースというのが、珍しくないことも同時に知った。

本当に珍しくないのだ。
久しぶりに実家に帰ったら開封されてもいない段ボール箱か山積みになっていた、なんて話が。

もとより、自分よりももっと大変な人はいくらでもいるだろうとは思っていたけれど。
通販を頼んでしまう点ひとつとっても、もっと過剰な身内を抱えてる人がいて、同じ(でももっとあなたのほうが大変そうな)状況ですねと話を聞くなどしている。


物がない時代を経て、
物があることが豊かさの、成功の象徴の時代をくぐり抜けて今。
過去に感じてきた不足感なのか、
あるいは成功への欲求なのかは知らないけれど。

何もわからなくなって、
何も判断がつかなくなって、
なお、欲望に歯止めが効かない僕ら人間の衝動。
それは本当に欲望なのか、別の何かなのか。
そんな衝動につけ込む存在がいることは確かだ。

父の家に行くたびに、どこで父の住所を知ったのかわからないが、見たことも聞いたこともない通販会社からの冊子が常に数冊届いている。

その度に僕はそれを回収させてもらっている。
中には暴利としか言いようがない価格設定を「今だけ大特価」と赤字で修正してそれでもなお高い金額になっているものもある。
あるいは全く同じ商品がディスカウントショップでもっと安い価格で売られているのをみたことがある、なんてものもある。
そういう存在もいる。

年老いて、外に出歩かなくなった父や、その他の似たような状況の人たちにとって、こんな冊子も、わくわくして楽しいものなのかもしれない。
でも、あんまり人を馬鹿にしている。そのことに気づかずに絡め取られる存在に身内がされるのは、物理的な迷惑を被る場合もあるがそれ以前にただただ悲しい。

そんな中で、そもそも怪しい会社とジャパネットさんを同じ線上に乗せるわけにはいかないけれども。
ジャパネットさんの、顧客だけではなく、顧客のその先にいる家族にまで、利益を度外視して寄り添ってくださる姿勢に、感謝の念しかない。



ものを売り買いする、その向こう岸

ジャパネットさん以外にも、同じようなサービスをしていらっしゃる会社さんがいるという情報もその後耳にしている。

商品の購入と提供という本来の売買行為の向こう岸、彼岸の域だと思う。
そこに、到達して、心を砕いてくれる企業がある。
感謝しかない。

もちろん同じサービスをどこもかしこもやれ、というわけではない。

本来的には、身内が社会に対してアプローチしてしまう手前で、家族や身近にいる誰かが止められれば、目を離さずにいられればそれに越したことはない。
でも、そうしたくてもできないケースは、社会に対しては申し訳ないけれど事実としてある。

その、目が届かない場所に、手を差し伸べてくれて助けてくれる企業がある。
ただひたすらシンプルな感謝を伝えたい。


そんなわけで、今、
ジャパネットたかたを推している。



おかげさまで父は相変わらず命に別状はなく、
僕は自分の心身に不調を及ぼさないように気をつけつつ、とにかく一刻も早く彼の身の回りを整えることに奔走している。
たまにコンテンツ化しないとやってらんねえ!となってこんな記事にもしてみている。

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