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#7『ジャック・ランダ・ホテル』アリス・マンロー

ここ数日間、noteに書き綴っている、村上春樹編訳『恋しくて』。
7編目の作品は『ジャク・ランダ・ホテル』、作者はアリス・マンロー。ようやく私でも知っている有名な作家が出てきた!

この一冊には、10編の短編小説が掲載されているから、残りは3編。このまま連投できる気がする。

『恋しくて』、素直に最初から順々に読み進めているけれど、始めの頃に出会ってきた若々しくフレッシュで、どこか懐かしいようなラブストーリーから、どんどん成長して、大人のストーリーになっていく。
この本を読んでいると、自分も成熟していくような感覚になったりする。
本音を言えば、あまり成熟したくないけれど…。


今回のラブストーリーの主人公は、大人の女性。
「大人の女性」というと、なんだか響きはいいけれど、ちょっと歪んだカタチの愛の表現になってしまうのも、オトナならではかもしれない。
若い頃はストレートで素直な恋愛ができるよね。もちろん、実る場合もあれば実らない場合もある。別れがあれば、また別の人に恋をして、うまく結ばれた!として、たとえ結婚しても、出産しても、また壊れてしまう場合もある…。
もう、そういう痛みやストレスはこりごり。だからといって、生涯ひとりでいると覚悟を決めるにはまだ自信も無くて…。
だから、ちょっと歪んだ行動に出てしまいたいという心理も分かるような気がする。イタいけど。
ただ、たいていの場合は、歪んだ妄想を持っていたとしても、実際に行動には移さないけどね。

青春時代、ずっと一緒に過ごしたエレクトーンと共に


ここに描かれている歪んだ愛の表現者は、ゲイルという女性。
それは、ゲイルが恋人に捨てられたことから始まる。理由は、彼が若い女と駆け落ちしたから。
彼の居場所を知ったゲイルが、彼を追いかけていく。もちろん追いかけて終わりではない。彼と新しい彼女の家のポストから勝手に郵便物を盗ったりするのだ。さらに、別人になりすまして彼と奇妙な文通をする。
うーん、これって犯罪だよね…?

これは、ゲイルの一途な愛? 
捨てられた腹いせ、というにはまだ彼のことが忘れられないと思われる描写が出ていたから、やっぱり一途な愛なのかな。
一途な愛って一歩間違えると狂気だよね。真っ最中はいいけれど、すれ違いが始まってしまった時を考えると、やっぱり怖い。人の気持ちって変わるからねえ。

喉から手が出るほど望んでいた言葉だって、やはり変化する。待っている間に、言葉にも何かが起こり得るのだ。愛―必要―永遠。愛―必要―永遠。そのような言葉の響きも、ただうるさいだけの騒音になるかもしれない。

本文より

どうやら、ゲイルの一途な愛によるなりすましゲームも、終焉をも変えたようだ。ゲイルは「追う」から「追われる」という、立場逆転を望んでいるのだろうか。

愛―許し。
愛―忘却。
愛―永遠。
〔…〕
私を追いかけるかどうか、今度はあなたが決める番。

本文より

彼はゲイルを追いかけてくるか? 
……来ないんじゃないかな?

ところで、タイトルの『ジャック・ランダ・ホテル』は、「ジャカランダ」という植物の名前を、ゲイルが「ジャック・ランダ」という人の名前に聞き違えたところから来ている。
本文では、見逃してしまいそうなくらいのささやかなエピソードだったので、どうしてこれがタイトルに来ているのかな、と思っていた。
村上春樹のあとがきを読んだら、なるほどと思った。
聞き違い、このような微かなすれ違いが、歪みをみ出してしまうのかもしれない。
これは、恋愛じゃなくても、人生そのものがそうなのかもね。





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