本『希望の糸』東野圭吾

『希望の糸』

2019年7月5日 第一刷発行

著者 東野圭吾

発行所 講談社


~ゆるゆる読書感想文~

ネタバレしてますのでおゆるしを。

しまった。。。図書館で借りて読了してから2週間経ってしまった。

すぐに書いた方が記憶が鮮明なのにーーー!

というわけで、本当の意味でゆるゆる読書感想文です。


2週間経った今でも私の記憶に鮮烈に残っているのは、物語の展開を進めていく男性の登場人物よりもむしろ女性たち。

私は東野圭吾さんの著書は数えるほどしか読んだことがないのですが、ミステリー作品が多いかと思います。

読み進めるうちは、男性視点の描写が多いように感じました(記憶違いだったらすみません泣)

しかし、なんとも私が胸にざわめきを覚えたのは、3人の母たちの感情の揺れ動きです。私はこの観点から書いてみようと思います。



自分の子どもではないと判明しても、それでも「産む」と決意し、自分の意志を生涯通した怜子。彼女の言葉がとても象徴的でした。

「女は‥‥‥母親は厚かましくて勝手なの。元々はどこの誰の受精卵だろうが、自分が産んだ以上は自分の子供だとしか思えない。遺伝子なんて関係ない。そんなもの、くそ食らえよ。申し訳ないけど、罪悪感なんて少しもない。このままでいいと思ってた。」

というセリフ。正直に綴ると、読んでて少しぞくっとしました。母親という生き物のたくましさ、文字通りの厚かましさ、愛情の深さ、浅はかさ、、、こういったものがぎゅっと詰まっている気がします。

どこの誰の受精卵だろうと、自分のお腹で育って自分が産み落としたのだから、誰がなんと言おうと自分の子だ!私が守るんだ!という母としての強さと、一方で、元々の受精卵の提供者の事情や気持ちを顧みない・あえてそこには触れずにおこうという、ずるさというものも私は感じてしまいました。

それでも、母親になるというのはこういうことなのだろうな、と想像しました。私は出産経験がないので、いざ究極の選択を迫られたらどういう判断をするのかわかりません。でも、母親はこれくらい勝手じゃないと子育てという大仕事を全うするのは難しいのかもしれませんね。


対して、同じく不妊に悩み、病院のミスで取り違えられた受精卵の提供者、弥生。

弥生というキャラクターの描き方に対しての最期があまりにもかけ離れていてこれはすごいな~と個人的に思ったのですが、彼女の血を受け継ぐ子どもがこの世に存在しているとなると、弥生もやはり少し浮足立っていました。

我が子に会いたい、実の親に会いたい・・・というのは言葉では説明できない衝動的なものなのでしょうね。

弥生は怜子とはまた違った意味で、非常に冷静なように見えます。また、自分の子どもがいることを知っても、「会わせろ!」なんて無粋なことを言わない遠慮深さもあります。それなのに・・・彼女は殺されてしまいます。なんとも無情な世界観です。

彼女が好んで使っていたポジティブな言葉が、複雑な過去を持つ人が聞き手になると全く違う意味として受け取られてしまう。そんな悲しい結末でした。


そして私が一番やるせない気持ちになったのは三人の女性のラスト、多由子です。過去に2回堕胎し、今度こそ幸せになれると思って愛した人とは子どもが出来ず、挙句その愛した人を元妻に奪われるのではないかという被害妄想に駆られ殺人を犯してしまう。本当に望んだ時には授かれないのに、あなたは・・・という心のぐちゃぐちゃした音が聞こえてきそうでした。

最後に妊娠した嘘をつくのが、この小説の中で一番悲しい場面でした。


私が着目したこの三人の登場人物はみなそれぞれいい人でした。

そしてこの三人は「こども」で自分の人生を大きく変えてしまいました。

ある種の"執着"と言えるのかもしれませんが、これはきっとこどもを望む人は皆抱く感情なのかもしれません。それに強弱があるだけで。

この小説とは関係ありませんが、血の繋がりにこだわらなければ養子という制度もあります。が、自分が産めるなら産みたいと思うのが、女性の気持ちなのかなと思います。現に私もそう思っています。これは動物としての本能なのかもしれませんね。


私が弥生のセリフでとてもとても共感した部分があります。

「やっぱり自分が産みたかったです。産んで、おっぱいをあげて育てたかった。育児の苦労を味わって、成長を喜びたかった」

この精一杯のセリフがとても胸を打たれました。

ミステリーの展開もさることながら、細かい感情描写も素晴らしい作品でした。やっぱり東野圭吾さんはすごい作家さんですね。


以下は、私個人の考えです。

もし将来私が子どもを授かり育てられるというギフトに恵まれたなら、望んでも出来なかった人や、様々な事情で育てられなかった人がいることを心に留めておこうと思います。


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