![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/164449479/rectangle_large_type_2_6af2fb31ef533c278cb8251b99f55be3.jpeg?width=1200)
楽翁公伝 0040. 緒言 - 公の業績 渋沢栄一著
公(楽翁公)は、このような困難な状況の中で、すべての人々が注目する舞台に立った。優れた識見と卓越した力量を持ち、世の中を治め民を救うという理想を胸に抱いていたが、その置かれた状況は非常に厳しいものであった。そのため、老中に就任した翌年の正月、密かに仏前に願文を捧げ、大きな改革を成し遂げるための加護を祈ったのである。
その祈りが実を結んだかのように、公はわずか6年1か月という在任期間に数々の偉大な業績を成し遂げた。その成果は、人間の誠意がいかに大きな仕事を成し遂げることができるかを証明するものであった。民政、財政、風紀の粛正、教育の振興、国防の整備、さらには外交に至るまで、どれをとっても後世に伝える価値があるものであった。それらをすべてにわたって一切の妥協なく成し遂げたことは、驚嘆に値する。
公がこれほどの成果を上げた背景には、白河藩の運営で培った経験と、経綸(世を治める大志)を抱いて困難に立ち向かった覚悟があった。とはいえ、功績がまだ道半ばであるにもかかわらず、公はあっさりとその職を辞し、名声や利益を超越した淡々とした境地へと身を置いた。その生き方は、まるで自然と調和した閑雲野鶴(かんうんやかく、空に浮かぶ静かな雲や野にいる自由な鶴のように自然の中で静かに生きること)のようであり、その心の平静さは澄み渡る光風霽月(こうふうせいげつ、穏やかで心地よい風や雨が上がった後の澄み切った月のように清らかで穏やか、そして澄み渡った理想的な心や状態)のようであった。進むときには誰もが追いつけないほどの力を発揮し、退くときには誰も及ぶことができないほどの超然とした姿であった。
この偉大な人格が形成された背景には、少年時代の育ちと生涯を通じたたゆまぬ修養があったことを知るならば、誰もが感嘆し、思わず膝を打つであろう。