アテネの数日 031 第三章-1 フランシス・ライト著
太陽の馬車がまだ地平線を駆け上がらない早朝、テオンは「あの庭」へと続く道を進んでいた。門は開いており、そこから入った小道は幅広く平坦で、両脇にはコルク、ライム、オークなどの森の中でも最良の木々が立ち並んでいた。その道をしばらく進むと、彼の目の前に変化に富んだ美しい芝生が広がり、そこを静かに、音もなく流れるイリッソス川が、淡い薄明かりの中で銀色に輝いていた。芝生を横切ると、彼は茂った小道へと入った。オレンジ、ローリエ、ミルトスの木々が頭上に覆いかぶさり、その花々が朝の微風と光にゆっくりと開き、露と香りを落としていた。その場の豊かな安らぎに彼の魂は満たされ、エリュシオン(1)の至福を感じながら、彼は空気を吸い込み、ゆっくりとした足取りで迷路のような道を進んだ。そして突然、緑に囲まれた小さな空き地に出た。目の前には美しい神殿がそびえ立っていた。
その場所は三方を花咲く低木の林に囲まれ、残る一方には蛇行するイリッソス川が境界を成していた。川の向こうには木立や柔らかく盛り上がる丘が見え、その斜面はオーロラ(2)の輝きで赤みを帯びていた。神殿は小さく円形で、パロス島(3)の大理石で作られていた。20本の柱で支えられた開放的なポルチコ(4)が建物を取り囲み、屋根はドーム状に盛り上がっていた。東からの淡いバラ色の光が柱に降り注ぎ、それはまるでディアナ(5)がエンディミオン(6)の前に立った時の頬の愛らしい紅潮のようであった。
テオンは足を止めた。その光景は天上のように美しかった。彼は長い間、静かで穏やかな喜びに浸りながら眺めていたが、ふと神殿の一方で衣服が揺れるのを目にした。近づいてみると、柱に寄りかかる一人の人物が見えた。その時、太陽が丘の上に初めて顔を出し、その光がネオクレスの息子の顔をはっきりと照らし出した。その顔は上を向き、目は深い思索にふけっているかのように見えた。その表情には知恵の平静が宿り、腕は胸の前で組まれており、衣服は足元まで柔らかく垂れていた。テオンは彼の方へ駆け寄ろうとしたが、彼の思索を乱すことを恐れ、足を止めた。その音に気づき、賢者は顔を上げて言った。
「ようこそ、我が息子よ。」彼は歩み寄りながら続けた。「快楽の園へようこそ。ここが平和、知恵、美徳の住まう場所であることを願う。」
テオンは頭を下げ、師の手に額をつけた。「教えてください、導いてください。私をあなたの望むような人間にしてください。私の魂はあなたの手の中にあります。」
ガルゲティウス(エピクロス)は言った。「お前の魂はまだ柔らかく、純粋だ。年月がそれを強くするだろう。しかし、それを汚さないように気をつけなさい!あの太陽を見てごらん。夜明けの今は美しく輝いているが、正午に向かうにつれて強さと美しさを増し、最後には壮麗な姿で静かに休息へと向かう。それと同じように、お前も歩みなさい。我が子よ、耳と目を開き、良いものを知り、それを選びなさい。美徳の道に入れば、その道は甘美であることを知るだろう。その道には茨はなく、険しさもない。ちょうどこの庭のように、すべてが快楽と安らぎで満ちている。」
「なんと!」とテオンは叫んだ。「あなたの口から語られる美徳は、ゼノンのそれとはまったく違います。」
「ゼノンの教えは崇高であることに間違いはない」と賢者は答えた。「彼の学派からは偉大な人物が生まれるだろう。一方、わが学派からは愛すべき世界が生まれる。ゼノンの目はある特定の人間に向けられている。私の目は全ての人々に向けられている。哲学者でなければストア派にはなれない。だが、エピクロス派には誰もがなれる。」
注釈
1. エリュシオン (Elysium):ギリシャ神話において、英雄や徳のある者が死後に行く楽園。平和と至福が永遠に続く場所とされる。
2. オーロラ (Aurora):ローマ神話における暁の女神で、ギリシャ神話のエオス(Eos)に相当する。夜明けを象徴し、空を赤く染める光の比喩として用いられている。
3. パロス島 (Paros):エーゲ海に浮かぶギリシャの島で、高品質の白い大理石(パリアン・マーブル)が採れることで有名。古代の彫刻や建築に多く使用された。
4. ポルティコ::ストア派の哲学者たちが議論を行った柱廊のこと。
5. ディアナ (Diana)ローマ神話の月と狩猟の女神。ギリシャ神話のアルテミス(Artemis)に相当し、純潔と自然の守護者として知られる。
6. エンディミオン (Endymion)ギリシャ神話に登場する美しい青年で、アルテミス(ディアナ)が恋に落ちたとされる。月明かりの下で眠る姿が詩的に語られてきた。
7. ネオクレス (Neocles):エピクロス(Epicurus)の父の名前。エピクロスはギリシャ哲学の一派「エピクロス主義」を創始した哲学者で、快楽と平和を追求する思想を説いた。
8. ガルゲティウス (The Gargettian):エピクロスを指す別名。彼の出生地であるギリシャのガルゲット(Gargettium)に由来している。