展覧会レポ:弘前れんが倉庫美術館「蜷川実花展 with EiM: 儚くも煌めく境界」
【約4,200文字、写真約60枚】
弘前れんが倉庫美術館(青森県)で「蜷川実花展 with EiM: 儚くも煌めく境界」を鑑賞しました。その感想を書きます。
結論から言うと、弘前市民の方も、旅行で青森に訪れた方も、是非とも寄るべき美術館・展覧会だと思いました。弘前市の歴史を尊重した美術館の建築、蜷川実花氏の展覧会に関しては、空間を大きく使った映えるインスタレーション、弘前公園の桜を撮影した新作の展示など、見応えも十分でした!
▶︎訪問のきっかけ
一人の時間が2日間できたため、青森にある美術館を巡ることにしました。まずは、弘前れんが倉庫美術館からスタート(後々、旅の全体像についても投稿予定)。金曜日、東京駅から22:20発の夜行バスに乗り、8:30に弘前駅に到着しました。
▼青森県で訪れた美術館
▶︎美術館へのアクセス
弘前れんが倉庫美術館へは、弘前駅から徒歩約15分。100円の巡回バスが弘前駅から運行されています。ただし、バスは10時から出発するため、9時台から美術館に入館したい場合は、駅から歩いて行きましょう。弘前駅から美術館まで、歩いても全然行ける距離です。
▼弘前駅から美術館までの超分かりやすい徒歩ルート案内
住所:青森県弘前市吉野町2−1
▶︎弘前れんが倉庫美術館とは
元々は、シードル(りんごからつくったスパークリングワイン)を作る工場だったようです。しかし、シードルの販売がうまくいかず、ウヰスキーの工場や、政府備蓄米の保管用倉庫として利用されていました。
倉庫を所有していた、当時の吉井酒造株式会社社長・吉井千代子氏が奈良美智氏の画集を見て、展覧会の開催を申し出た結果、2002年、2005年、2006年に、多くの地元ボランティアの協力もあって展覧会が開催されました。
そのような実績の後押しもあり、2015年に弘前市が倉庫の土地と建物を購入、2020年に「弘前れんが倉庫美術館」が開館しました。
建物全体から、弘前市の歴史、倉庫としてのコンセプトを強く感じました。「ハコモノ」感がなく、運営側の魂を感じられる好印象な建築でした。美術館の創設と企画・運営・管理は、N&A株式会社が行っているようです。
様々なドラマがあって、美術館がオープンし、弘前市と縁も所縁もない私が、東京駅から訪れる。そこに歴史の綾の不思議さを感じました。また、朝9時からオープンする美術館は珍しく、旅行者にとって大変助かりました。
▶︎「蜷川実花展 with EiM: 儚くも煌めく境界」感想
蜷川氏の展覧会は、作品の世界観と会場の演出が一体となっているため「作品だけでなく、展示方法も含めてアートだな」と感じることができます。
部屋によって様々な世界観が作り込まれていました。カラフルな部屋、暗く禍々しい部屋、楽しげなインスタレーションの部屋、無機質な部屋…。それぞれの展示室に見る人を惹きつける工夫があり、メリハリが効いているため「次はどんな部屋なんだろう?」とワクワクして鑑賞できました。
最初の部屋では、白い壁に地面からカラフルな光が出ていました。そんなメルヘン空間の中に展示されている作品は、一見して美しく見えるものの、どこか毒々しく、儚い世界観を感じました。
ネオンの演出も蜷川氏の作品にはマッチしていました。ネオンという素材には、哀愁・儚さを感じるような不思議な作用があると感じます。
また、作品にタイトルなどが一切書かれていませんでした。これは「瞬く光の庭」@東京都庭園美術館(2022年)と同じ傾向でした。当時、私は「作品にキャプションも付されていないため、旧朝香宮邸内の装飾と、蜷川実花の作品を、素の心理状態で鑑賞できるのも良い」と書きました。
今回も同様に、余計なキャプションがないことで、作品や会場の雰囲気を素直に楽しむことができました。蜷川氏のこだわりなのでしょうか。
2つ目の展示室から醸し出される蜷川氏の世界観からは、漫画家の矢沢あいに似た印象を受けました。きっとお二人は気が合いそうです。
この展覧会では、蜷川氏らしい「映える」作品が多いです。特に、大きな吹き抜け空間を使ったインスタレーションは「映え of 映え」でした。四方を囲む映像を映す二重の幕の中には、色鮮やかな造花や蝶が設置されています。来場者は非日常感を味わい、撮影を楽しんでいました。
もし、この展覧会を都内で開催したら、「映え」を狙う女性がたくさん来場して、撮影大会になりそうです。弘前市でゆったり蜷川氏の作品を見られる機会に感謝です。
「映え」の世界から一転、次の展示室は、蜷川氏の父・幸雄氏が病に倒れ、ゆっくりと死に向かう一年半の日常を撮影した作品で構成されます。
このような日常スナップは、撮るのが難しいと感じます。私はカメラを構えると、つい四角四面に画角を決めてしまい、味目ない写真を撮ってしまいがちです。スナップ写真で人の気持ちを伝えるのは、熟練の技が必要だと改めて感じると同時に、勉強になりました。
「桜は散るから美しい」とよく聞きます。そんな桜は、まさに蜷川氏の芸風にピッタリな素材だと思いました。
2022年に撮影した弘前公園の桜の写真が展示されていました(10点は初公開)。その桜の中には、特別な管理方法により樹齢100年を超えるものもあるそうです。作品の美しさに気付くだけでなく、この展覧会を弘前れんが倉庫美術館で行う意義、地球環境の変化まで考えるきっかけとなりました。
展覧会の内容と、美術館・町全体がリンクしており、ストーリー性を感じる良いキュレーションだと思いました。
私は「蜷川実花:Self-image」@原美術館(2015年)でも蜷川氏が目黒川で撮影した桜を見ました。蜷川氏はその写真に「あの日にしか撮れない、その時にしか残せない、そんな写真」とコメントしていました。まさに、日本人ならではの刹那的な儚さ、その裏にある美しさを感じることができました。
展覧会全体を通して、蜷川氏は色にこだわりをもっている、色の個性を見極める目をもっている写真家だな、と感じました。淡い、濃い、薄い…。きっと蜷川氏の眼球から見た世界は、私とは違う色で見えているのでしょう。
常設されているジャン=ミシェル・オトニエルの作品に会えて嬉しかったです。私がアートに興味を持ち出した頃、品川や群馬の原美術館で作品を鑑賞したことを覚えています。
《エデンの結び目》は、オトニエル氏が青森のりんごから着想を得て、弘前れんが倉庫美術館のために制作したそうです。蜷川氏の作品と色合いや世界観がマッチしており、この場所への展示はピッタリだな、と思いました。
▶︎まとめ
いかがだったでしょうか?総じて満足!弘前れんが倉庫美術館のためだけに、弘前市へ寄る価値があると思いました。
私は、初めて弘前れんが倉庫美術館に行きました。美術館が弘前市の背景を尊重していると感じられた点は好印象でした。また、蜷川氏の展覧会は楽しくて学びも多かったことに加え、この展覧会が弘前れんが倉庫美術館で行う必然性、ストーリーがあることは、一般的な展覧会よりも優れたキュレーションだと思いました。弘前市民も、そうでない人もおすすめです!
▶︎今日の美術館飯
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