展覧会レポ:長野県立美術館「NAMコレクション2023 第Ⅳ期 〇△□」「東山魁夷館コレクション展2023 第Ⅳ期」
【約4,200文字、写真約30枚】
長野県立美術館(以下、NAM)の2つの常設展「NAMコレクション2023 第Ⅳ期 〇△□」「東山魁夷館コレクション展2023 第Ⅳ期」に行きました。その感想を書きます。
※「NAMコレクション2023 第Ⅳ期 〇△□」は既に終了しています。
結論から言うと、建物や周辺施設はステキだったものの、展覧会の中身には満足できませんでした。NAMを訪れる際は、できれば夏に、企画展のある時期や、善光寺観光と併せて訪問することをおすすめします。
▶︎長野県立美術館へのアクセス
長野県立美術館は、バス停「善光寺北」から徒歩約4分。長野駅から「善光寺北」へはバスで約15分。長野駅のバス停1番乗り場から乗車します。
▶︎長野県立美術館とは
長野県立美術館(Nagano Prefectural Art Museum、以下NAM)は、主に郷土作家の作品などを収蔵する「本館」と、東山魁夷の作品を収蔵する「東山魁夷館」から構成されています。
NAMの前身は、信濃美術館(1962年)でした。それが県立に移行し、長野県立信濃美術館(1969年)になりました。その後、東山魁夷からの作品寄贈により、東山魁夷館(1987年)が併設されました。
しかし、施設の老朽化、狭隘な施設、学芸員の不足など、数々の問題が指摘され、本館・東山魁夷館ともに2017年に休館、再整備となりました。本館:100億円、東山魁夷館:10億円の費用をかけて工事が行われ、改修前よりも延べ床面積は2.5倍の広さになったらしいです。改修後(2021年)現在でも、長野県唯一の県立美術館として運営しています。
建築で3つの賞(日本建築学会賞、JIA日本建築大賞、AACA賞)を取るほど社外から評価されているため、私は訪れる前からワクワクしていました。
特に、秋に訪れると、善光寺・空・紅葉した山のコントラストがとても綺麗でした。また、広場にベンチが程よく設置され、読書など寛ぐには最適です。美術館に入らなくとも、広場や屋上でゆったり過ごすことができるため、まさに「ひらかれた美術館」だと思いました。
ただし、全体的な印象は、若干期待外れでした。景色は心が落ち着き、建築の見た目は格好いい、しかし、中身はイマイチ、というのが私の感想です。また、常設展だけの鑑賞はあまりおすすめしません(後述)。
▶︎「NAMコレクション2023 第Ⅳ期 〇△□」感想
「〇△□」と題して、コレクション作品から、モチーフや部分が〇△□(丸・三角・四角)に見える、もしくは連想される作品を特集しています。なお、展示室内は全て撮影禁止でした。
感想は「作品云々よりも展示数が少ない!」。展示室は2部屋、作品数は全38点しかありません。「ふむふむ…」と鑑賞していると「もう終わり?!」でした。ここまで常設展の規模が小さい美術館は珍しいのでは。
所蔵作品が少ないから仕方ないのかな?と思いました。しかし、調べてみると、所蔵作品は、合計5,592点[内訳:本館4,614点、東山魁夷館978点]もありました。38点は、本館所蔵数の0.8%に過ぎません。
美術館は、常設展にこそ、その美術館独自の面白さや、個性がないといけないのではないでしょうか。「館長挨拶」でも以下のように述べています。
現状は、上記「使命」が果たせていないと思いました。NAMの前身である長野県立信濃美術館の課題として「狭隘な施設」が挙げられていました。設計段階で、コレクション展を行うための十分な展示室のスペースを確保すべきだったのはないでしょうか?
HPや実際の美術館内で、建築の素晴らしさを誇る説明を見るたびに、強い違和感を感じました。
▶︎「東山魁夷館コレクション展2023 第Ⅳ期」感想
東山魁夷館は、東山魁夷本人からの寄贈により、1990年にオープンしました。所蔵している約900点のうち、スケッチ・習作が350点と多い特徴があります。なお、東山魁夷館も展示室内は全て撮影禁止です。
私は、東山魁夷の作品を少し知っている程度でした。そのため、東山魁夷館で作品をまとめて鑑賞でき、魁夷の理解が深まる良い機会となりました。
東山魁夷の本名は東山新吉、1908年に横浜で生まれ、その後、神戸で育ちました。東京美術学校在学中に長野を訪れた際に、長野の自然に感銘を受け「(長野は)私の作品を育ててくれた故郷」と思ったそうです。その縁から、魁夷は亡くなる前、大好きな長野県に作品を寄贈したとのこと。
東山魁夷は《道》(1950年)で有名になったそうです。その後、1962年から北欧に旅行に行ったことで、青い色彩を多く使うようになり「青の画家」と呼ばれるようになりました。唐招提寺では幅80m、5堂68面の襖絵を描く(1972年〜1981年)など国民的な画家だったようです。1999年、90歳没。
展覧会のキャプションには、作品を制作した年と併せて、東山魁夷本人の年齢が記載されているのは珍しく、良い取り組みだと思いました。展覧会で作品の制作年を見ながら「この作品を作った時、作者は何歳だったのかな?」「作風が年齢とともに変わったな」など考えることがあるため有難いです。
東山魁夷館は、下図が多く所蔵されています。この展覧会で、下図と本作が並べて展示している作品も1対ありました。完成された作品を見るだけでなく、下図もあることで、制作のプロセスを追体験できると感じました。
なかには、皇室の依頼による作品もありました。皇室は作品を買うのではなく、わざわざ作成を依頼するんですね。作品を置く部屋と、そこに掛ける絵の構図まで、初期から精緻に設計したいからでしょうか。
また、皇室が仕事を依頼するほど東山魁夷のポジションが高かったのは何故か、疑問に思いました。私は、東山魁夷が日本を席巻した当時を知らないため、東山魁夷が人口に膾炙した理由を、展覧会を通して分かりやすく示されていると良かったと思いました。
東山魁夷の作品全体を通して、シャガールや藤城清治のようなファンタジックな印象を抱きました。東山魁夷の描く幻想的な絵画を見ていると、まるでそこにいるかの如く、静謐な気持ちになれました。
さらに、直近に水野美術館で奥田玄宗の作品も見たため、色使いは真逆なものの、二人の根底には似たような精神性があるな、と感じました。
なお、展示室内はオールドファッションで、公民館のような印象でした。キャプションのパネルも明朝体でオーソドックスに書かれており、市民絵画展のようでした。本館のコレクション展でも感じたことと同様に、建物が新しくスタイリッシュな一方で、展覧会の中身に精細さが欠けると感じました。
▶︎まとめ
いかがだったでしょうか?2021年にリニューアルオープンしたため、外観は綺麗で、地域ともうまく融合した過ごしやすい美術館でした。しかし、常設展はボリューム不足だったことから、展覧会の内容は満足できませんでした。長野県立美術館に訪れる際は、夏に(冬は水が抜かれているため)、コレクション展だけ行くのではなく、企画展をメインにするか、善光寺観光と併せた訪問がおすすめです。