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断捨離。
下駄箱の中に、履き古したスニーカーがある。
「エア マックス狩り」という言葉が生まれるほど社会問題になった90年代の、あのエアマックスだ。
「あ。それ捨てちゃダメだよ!」
後ろからオットさんの声が響いた。
ふふふ。やっぱりな。
今回も見なかったことにしよう。
これは結婚前に私がプレゼントしたものなのだ。
創立20周年記念の社員旅行は香港だった。
30歳、初飛行機。
翌月は北海道で自分の結婚式が控えていた。
私の中では飛行機と富士山は見るもの。
高いところは飛ばない、登らない。
そう。飛行機が大の苦手なのだ。
行きたくない。(泣)
彼(オットさん)のためなら北海道へ行くために頑張れる!
が、それ以外では無理だ。
そうだ!香港を断ろう!
これからの人生の方が大事じゃないか!
来月結婚式だからという最高の理由で行かない選択を希望した私は、切々と社長に伝えた。
香港辞退は見事に秒で散った。(そりゃそーだ)
もう私は生きて帰ってくるしか道はなかった。
当日、見送りに来てくれた彼(オットさん)は
「何もいらないから元気に帰ってきてね。」
私は飛行機が大の苦手なだけで、旅行は好き。
香港は返還前。エネルギーで溢れていた。
クリスマスの電飾がどこも素敵すぎた。
日本でも見られるが全くの別物。
アートよ、街中ARTだらけ。
食も素晴らしかった。
初めて食べる海鮮は種類がありすぎて、美味しすぎて。
頬がおちるどころではない。
幸せすぎて笑うしかなかった。
やっと到着したホテルはシャングリラホテル。
日中歩きすぎて部屋を楽しむ前に爆睡。
これだけは残念だった。
翌日、同僚のよっしーが聞いてきた。
「彼にお土産は買わないの?」
「私が元気に帰るのがお土産なのだよ。」
「いやいや。せっかくだから何か買ったら?
エアマックスなら日本よりめっちゃ安いよ!」
興味のないものはゼロの私だったが、よっしーの
一生懸命なエアマックスの回し者かと思うぐらいの、エアマックス愛の力説に負けて一足買うことにした。
あっという間の3泊4日。
「おかえり。」
彼(オットさん)は空港まで迎えに来てくれた。
実家では香港の土産話とパインのお菓子で家族でワイワイ。
彼(オットさん)にはエアマックスをプレゼント。
映像関係の仕事の足元はスニーカーが基本。
まさかのお土産は喜びもハンパなかった。
この時以上の笑顔は、まだ見た事がない。
むむむ。
と、ここまで書いて気づいたことがある。
私はきっとオットさんより、この履き古したエアマックスに思い入れがあるのではないか。
香港辞退を阻止した社長は3年前に天国へ。
あの時のよっしーも今はいない。
旅行中はチップの習慣がなくて教わったり、焦ったり、謎の宝石店へ入ったり。
あの一足でまだまだ語れる。
「あ。それ捨てちゃダメだよ!」
オットさんのひと言にホッとしているのは
間違いなく、私だ。