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気づかないうちに舞い降りた…
これで三回目の挨拶。
「おはようございます」
病棟に入るとニイナさんが挨拶をしてくれる。
病棟で会う度何度でも挨拶をするのが彼女の習慣。
お昼には「こんにちは」何度でも何度でも。
グルグル歩き回るのは散歩なのか、頭の中を空っぽにしたいからなのか。
ニイナさんは毎日病棟内を歩いている。
控えめで人とのトラブルもない彼女。
職員は好むと好まぬと関わらず、手のかかる患者さんと対峙する事が多い。
例えば、廊下に放尿するおじいちゃん。
例えば、人の物をとる認知症患者さん。
例えば、誰かれ関係なく喧嘩を仕掛ける患者さん。
その中にあって静かな患者さんは正直ありがたい。
でも、どうかすると関わることが後回しになってしまいがち。
もしかすると、淋しい思いを与えてしまってないかな?
ちょっと心配。
淋しさゆえ、ちょっと皮肉やさんになっちゃう患者さんもいるから。
かまって欲しいがゆえにね。
ニイナさんは静かで穏やかな患者さん。
食事や薬を配るときも
「ありがとうございます」
彼女の口から不平不満の言葉を聞いた事がない。
誰かと一緒に笑っている姿も見たことがない。
ニイナさんは記憶からこぼれ落ちてしまうくらい透明で特色がない患者さんだった。
昨日までは。
だけど、私見ちゃったんだ。
点滴をしている患者さんの部屋にニイナさんがいるのを。
「きついですね。早く良くなってくださいね」
そう、声をかけているニイナさんの姿を。
一時期同じ部屋にいたふたり。
ニイナさんはその人が食事に来ないから心配して部屋に見に行ったんだね。
他にも、私見ちゃったんだ。
ソファーに座っている淋しがりやのおばあちゃんに
「一緒に歩きましょう」
そう、声をかけているニイナさんの姿を。
そんなこと言ったりする人いないよ。
みんな自分の事で頭いっぱいだから。
ワイワイ目立つタイプの人でなく
静かに周りを観察してそっと寄り添うニイナさん。
与えて貰うことよりも人に思いやりを与えることができるなんて。
なんて優しいんだろう。
天使って気づかないうちに舞い降りるんだね、ニイナさん。