内田 奈芳美

アメリカにサバティカルで滞在しています。2021年11月〜2022年2月までシアトル市…

内田 奈芳美

アメリカにサバティカルで滞在しています。2021年11月〜2022年2月までシアトル市・ワシントン大学の客員研究員、2022年3月からニュージャージー・ラッガーズ大学の客員研究員です。 普段は日本の大学で都市計画を教えています

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  • 2021年のポートランド

    まちづくりでしばしば参照される都市であるポートランドの2021年の訪問記です

最近の記事

アメリカ長期滞在の雑感:格差と日本への学び

アメリカ長期滞在ももう終わりです。寂しいような、ほっとしているような感じですが、10ヶ月近くの滞在でいろんな人にお話を聞くこともできました。 20年ぶりの長期滞在で、今回は西海岸も東海岸も経験することができました。本当にありがたいですが、改めて印象に残ったことがありました。 1.「スーパースター都市」とそれ以外の都市の差の大きさ [1]スーパースター都市 「スーパースター都市」とは とこの資料では定義されています。 今回滞在したのはシアトルとニューヨークエリアなので、ど

    • ニューヨーク・エリアに住んでみた現実:成長と生活の間で

      「ニューヨーク」エリアに住むこと ニューヨークには何回も旅行では来たことがありましたが、一度このエリアに長期滞在して調査してみたいといつも思っていました。今回その願いが叶ったのですが、実際に住んだのはニュージャージーです。まあそれはそれで良かったのですが、実際にこのエリアに住んでみて改めて見えてきた現実がありました。 シアトルとも比較できないくらい家賃が高い 先月はマンハッタンの家賃の平均が約$4000(約55万円)というニュースを見て、高いな〜と思っていたのですが、今

      • ニューヨークの外側が面白い?クィーンズの徒歩世界旅行

        クィーンズ一日ウォーキング ラッガーズ大学の先生がご自身がコミュニティの活動をしているクィーンズを案内してくれました。 クィーンズは、マンハッタンの東側でブルックリンの北側、多くの住民が2言語以上を話すという多様性あふれるエリアです。 一般的にアストリアがギリシャ系、フラッシングが中国系・・・などと言われてはいますが、単純には区別して理解できないぐらいまざりあっています。ルーズベルト通りに沿って数ブロック歩くと、 建築パターン・サインに用いられている言語・路上の使い方・店

        • 都市計画の教科書的なニューアーク

          ニュージャージーと埼玉 こちらに来てから埼玉とはどのようなところか、と聞かれると 必ず「ニュージャージーのようなところだ」と答えていたのですが、 この答えは100%東海岸のアメリカ人に喜ばれます。なぜなんでしょうか。ニュージャージーはいったいどのような心理的位置づけなんだろうといつも疑問に思います。 せっかくニュージャージーにいるのですから、もっとこの州内の都市について理解したいと思うのですが、中部や南部から北部ニュージャージーに行こうとすると必ずマンハッタンを経由しなけれ

        アメリカ長期滞在の雑感:格差と日本への学び

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        • 2021年のポートランド
          3本

        記事

          SOHOは誰のもの?にぎわいと、資本の流れ

          SOHOはショッピングの場所として有名です。案内してくれたNYの大学の先生が「NYの原宿」と呼んでいました。(東京に詳しい方です) 確かに土日は人であふれています。ラドガーズ大学の先生もティーンエイジャーのお子さんがSOHOに行きたがるとおっしゃっていました。 とにかく人気の場所です。 SOHOがハウストン通りから南側、NOHOが北側なのですが、この周辺におしゃれな建物とお店が集積しています。 ジェントリフィケーションの典型例としてのSOHO/NOHO ところで去年のニュ

          SOHOは誰のもの?にぎわいと、資本の流れ

          旅する再開発アイディア(@ウォーターフロント)

          ニューヨーク周辺のウォーターフロント開発 ニューヨークのウォーターフロントでは再開発が加速しています。 ・ジャージーシティ(NJ) ・ダンボやウィリアムズバーグ(ブルックリン) ・ハンターズ・ポイント(クィーンズ) ・コーネルテック(ルーズベルトアイランド) ・ハドソンヤード(マンハッタン・ハドソン川) ・イースト川沿いの現在進行形の開発(※NYCが現在力を入れているようですが、まだ未開発なところも多いので、今後すごく変わりそうです) マンハッタンは川に囲まれているので、ウ

          旅する再開発アイディア(@ウォーターフロント)

          マンハッタンの外側が面白い?(ex.ジャージー・シティ)

          マンハッタンの外側の多様性 ラッガーズ大学の先生と話をしていて 「今はマンハッタンの外側の方が面白いよ」というお話がでました。 この先生はクィーンズでコミュニティといろんな活動をしている方で、クィーンズがいかに多様性に満ちているかというお話を聞きました。例えば ・南アジア出身だけど、何代もアフリカに住んでいて、そこからアメリカにやってきた人たち ・スペイン占領前の言葉を話すヒスパニックの人たち このような人たちの文化が多様に混ざり合っているのがクィーンズで、 一口に「○○出

          マンハッタンの外側が面白い?(ex.ジャージー・シティ)

          都市のウォーカビリティというけれど  (in アメリカ)

          半・郊外のぎりぎりウォーカブル 今住んでいるところはニュージャージーで、なんとか歩いて暮らせるかな・・・という感じで、いわば半・郊外の環境です。 一番近いスーパーは歩いて10分(あまり好きなスーパーではないですが)駅は良くて徒歩15分、アジア系スーパーは歩いて40分で(バスは時間通り来ない)まわりには商店街はありますが、シアトルのウォーカブルで多様なお店がそろっていた状況とは比べようもありません。 シアトルではHマート(韓国系スーパー)は徒歩や公共交通利用などで3軒は歩いて

          都市のウォーカビリティというけれど  (in アメリカ)

          アーティストはどこへ行くのか(in NY)

          賃貸市場の回復と家賃の高騰 NYの家賃が高いことは有名ですが、先日以下のような記事がニューヨークタイムズに載っていました。NYで何かを成し遂げた、と思うことの一つは一人暮らしをかなえることだそうで・・・賃貸市場が回復してきたことで、急に家賃が更新時に2倍になったり、家賃高騰でシェアに後戻りしたなどの話が出てきます。 この記事が面白いのはコメント欄で、「自分の親が来たときは月20ドル(!?)の家賃だった」とか「自分はレント・ステービライズ(家賃安定策)の住宅に住んでいるので

          アーティストはどこへ行くのか(in NY)

          民主的なNYとオープン・レストラン

          シアトルも引き続き治安が不安定な状態が続いているようですが、 マンハッタンも地下鉄の治安がかなり問題視されています。 ハンマーで殴られる、ホームから突き落とされるなどの事件が続いており、私も行ったときには地下鉄を避けるようにしています。 そんなわけでマンハッタンに行くと2万歩くらい歩く羽目になるのですが、地域ごとに多様な表情があり、歴史の重層性が感じられるので、 歩いていても全く飽きません。(でも疲れます) 新市長のリカバリー・プランとオープン・レストラン NYの新市長の

          民主的なNYとオープン・レストラン

          NYの公共空間はいまどうなっているか

          3月からニュージャージーの州立大学であるラッガーズ大学のあるまちに移動しました。NYの郊外、大学街で静かなところです。 マンハッタンからはニュージャージー・トランジットで一時間程度の距離になります。 マンハッタンに戻ったにぎわい シアトル同様、マンハッタンも治安の悪化がよくニュースで流れています。気をつけながら現地調査をしたいと思いますが、まず気になったのは一時パンデミックの震源地と言われたNYの公共空間がどうなっているかです。 ・・・ 結論から言うと、マンハッタン中心部

          NYの公共空間はいまどうなっているか

          グリーン・インフラ(もしくはネイチャー・ベースド・ソリューション)の重要性

          シアトル市は地震が起きる地域でもあり、ワシントン州は津波の危険性もあります。ワシントン大学の先生と話していたら、近年防災におけるグリーン・インフラへの着目が特に進んできているとのお話がありました。 特に、災害対応をする連邦政府の組織であるFEMA(緊急事態管理庁)が、ネイチャー・ベースド・ソリューション(自然ベースの解決法)の考え方を示し始めたとのことで、グレー・インフラ型の考えが強かったところが、グリーン・インフラの考え方を導入し始めているようです。 FEMAが「BUIL

          グリーン・インフラ(もしくはネイチャー・ベースド・ソリューション)の重要性

          ポートランド(3)20分で必要なサービスに到達できるまちづくり

          車に頼らないまちづくり ポートランドは公共交通が充実した歩きやすいまちづくりで有名です。こういった生活しやすい都市づくりの概念として、近年15-minute neighborhood(15分ネイバーフッド:15分で生活に必要なサービスに到達する地域づくり)という言葉がよく用いられます。ポートランドの場合は20-minute neighborhood、つまり20分で生活に必要なサービスに到達する地域づくりを計画に含めています。 「コンプリート・ネイバーフッド」を目指して

          ポートランド(3)20分で必要なサービスに到達できるまちづくり

          ポートランド(2):現在どうなっているのか(ホームレス・キャンプの問題と背景)

          アメリカの都市部でホームレス・キャンプが路上を所々占拠している状況は、パンデミック前から見られてきたようです。ただし、2020年はパンデミックによってキャンプ撤去への対応が遅れ、多くの都市で制限が解除された後も残置しているようなかたちになっていました。ポートランドではホームレス・キャンプの報告システムがありますが、それを見ると、中心部ではチャイナタウンや高速道路の周辺に集中しているようです。 リベラルな都市にホームレス・キャンプが多い説 都心部のホームレス・キャンプ問題が

          ポートランド(2):現在どうなっているのか(ホームレス・キャンプの問題と背景)

          ポートランド(1):現在どうなっているのか(パンデミックを経て)

          1.理想のまち、ポートランドの今(2021/11) ポートランドは理想の都市としてよく名前があがります。確かに美しい都市で、路面電車など公共交通期間が充実しており、非常にウォーカブルです。人々もシアトル同様に寛容な価値観をもつ人が多く、政治的にも先進的(プログレッシブ)な政策を行う都市です。シアトルよりも都市のサイズが小さいことから、のんびりとした雰囲気も魅力的なところです。 ただし、2020年〜2021年はシアトルと同様にポートランドのダウンタウンでも暴動が起き、非常に困

          ポートランド(1):現在どうなっているのか(パンデミックを経て)

          自己紹介

          都市計画・まちづくりの研究者として、日本の大学で教員をしています。2021年10月からサバティカルでアメリカの都市計画に関する研究を行うため、渡米しました。 現在はワシントン大学の客員研究員としてシアトル市に滞在しています。(今後東海岸にも滞在する予定です) もちろんアメリカではまだまだ新型コロナに対して慎重に行動する必要があります。シアトル市はマスクをしている人も屋外ではそれなりにという感じですが、店内はマスク着用が義務化されています。 一方で、私が20年前にシアトル