ポートランド(2):現在どうなっているのか(ホームレス・キャンプの問題と背景)
アメリカの都市部でホームレス・キャンプが路上を所々占拠している状況は、パンデミック前から見られてきたようです。ただし、2020年はパンデミックによってキャンプ撤去への対応が遅れ、多くの都市で制限が解除された後も残置しているようなかたちになっていました。ポートランドではホームレス・キャンプの報告システムがありますが、それを見ると、中心部ではチャイナタウンや高速道路の周辺に集中しているようです。
リベラルな都市にホームレス・キャンプが多い説
都心部のホームレス・キャンプ問題が目立つのが、サンフランシスコ・シアトル・ポートランドと、非常にプログレッシブ(先進的なリベラル)な都市であると言われています。(LAやNYにも同様の問題がありますが、人口あたりのホームレスの人数として。)
そのことを論じたのが、以下の本『San Fransicko』です。この本ではサンフランシスコのことが中心に書かれていますが、プログレッシブ(先進的なリベラル)が政策をコントロールする都市が、いかにホームレス・キャンプの問題に対してうまく対応できていないか、ということを論じたものです。
筆者は「ハウジング・ファースト」の政策(ドラッグを使用しないなどの条件をつける前に、ともかく住宅を提供すること。ポートランドもそのようなアプローチです。)が、結果的に問題解決を遠くしているとの論を展開しています。住宅の提供には時間とお金がかかり、シアトルやポートランドのようなところでは住宅の供給数が追いつかず、現実的ではないということです。また、プログレッシブな人々が路上に滞在する権利をバックアップし、テントなど路上生活のための道具を提供していることを背景の1つとして指摘しています。
一方で、本書のニューヨークタイムズにおける書評としては、この本はホームレスになった理由を的確に示していないと批評しています。結局のところ住宅を失ったことがホームレスになった最大の原因であり、本書の論調のようにドラッグ使用などの本人たちの「選択」によってホームレスになったのではないということです。(現在アメリカは40年ぶりの高いインフレ率であり、賃料や石油価格の高騰がかなりの部分それに寄与しています)
確かに、ヒューストン(テキサス)では前提条件をつけずに住宅を提供するハウジング・ファーストが成功していると言われているので、政策だけが原因ではないように思います。
理想的な政策と実情のズレ
リベラルで先進的な考えを持つ都市の課題として、権利保護の観点から理想的な政策を行った結果、実情のズレを生じる場合が多いのではないのかとも思います。
例えばポートランドはインクルージョナリー(包摂的)・ゾーニングというものを設けました。これは各集合住宅に低所得者向けの住宅併設を義務づけるものです。中心部の場合、20%がアフォーダブルハウジングである必要があります。
このような条件もあってか、近年の集合住宅の建設件数は結果的に減少しているようです。(アフォーダブル住宅部分に関しては税の減免もありますし、実際は容積率緩和もあるようですが)そうすると、開発に伴うアフォーダブルハウジングの供給量も減ってしまいます。一方で、ポートランドの都心部、特にパールディストリクトはジェントリフィケーションが進み、近年高層のコンドミニアム開発が進められてきました。
開発が進み、高級化したパールディストリクトでもホームレスキャンプは報告されていますが、地域の家賃や不動産は高いままのようです。(写真のコンドミニアムは約2.1億円で売りに出されていました。近年は少し価格が落ち着いたか、下落したようです。それでも高いですね。)
両極化した状況はポートランドの活力の維持にどのような影響をもたらすでしょうか。