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ホットケーキで幸せになれなくてごめんなさい

頭痛を抱えたまま起き抜けに、昨夜は何をしていたっけと途切れた充電器を横目に、アラームのスヌーズ機能が発動していることに気がついた。やらかしたと思ったが、耳の奥でテレビバラエティ特有の笑い声が秋風と共に流れてきて、ああ、今日は休日かと、のそのそとリビングルームへ足を運ぶと、ダイニングテーブルにていねいに半分に切られた二重のホットケーキが置いてあった。二重を半分ではなく、一枚ずつシェアすればいいのでは、と思ったが、半分にした犯人らしいと思う。どうせ訊ねたところで、二重の分厚さが大事なんだとか、屁理屈を言いそうだ。


昨夜は、メカ丸くんが真人と闘っている回をスマートフォンで観ていたはずだ、暫くアニメ『呪術廻戦』を観れていなかった回から見始めて、気がついたら眠りについていた。まだ最新話には追いついていない、推しの行く末を思うと、青い春を描いてくれていた回で止まっておきたかった。すでに漫画で結末を知っているし、2次元だから生死の状態は関係ないのだが、常に観測者の身勝手な脳内で動いているキャラクターが終止符を打ち、後世に分け与えていく物語をアニメの動きとして観測してしまうことで、私の複雑な思いと共に掻っ攫ってしまうだろう。だから、心を縛ってメンタルが安定している時でないと飲み込まれてしまう話だ、今の自分は「弱くても強く大人であらなければならない」という七海建人の生き様を見ては、後悔と恥に苛まれて飲み込まれてしまうのだと思う、所詮二次元のフィクションなのに。己がそうありたいからこそ、重ねてしまうことで感情を乗せられるのだと思う。

「ホットケーキ作りたくなったから食べな」


面白いのか面白くないのかわからないバラエティ番組を、倍速で見ながら真顔でリモコンを持っている彼が、目の前にあるホットケーキに目を向けて言葉を放つ。朝起きて、ホットケーキが気まぐれに作られている現状は幸せなのかもしれない、まるでご都合主義の小説のようだ、だけど、実際目の前に提示されても幸せだと思えない、この幸せと思えない自分も嫌になる、幸せを幸せだと思えないのは何かが欠落していて、私自身が問題なのだ。

「きみの死にたい病はいつになったら抜け出せる?」


そうか、昨夜は情緒不安定に今に憂いを抱いて泣き進めて、そのままアニメを観ていたのだ、頭が痛い理由も、メカ丸がどうなったか結末がわかる状態を知った上であえて好んでアニメを観ていたことも、全部理由が繋がった、私は限界だったんだ。


「ねえ、これみて、面白いから」


キッチンでカトラリーを探し、いつしかホットケーキを作った犯人が、食品の買い出しに付き添っている時に高めのジャムをカゴに放り込んで来て「我が家のエンゲル係数考えてくれない」と私が睨んだエピソードがついたいちごジャムと、便利キッチン用具で小分けに保存されたバターを取り出している際に、「早く」と催促されながら、のそのそとカトラリーを持ってリビングへ戻る。わざわざ停止ボタンを押して巻き戻し、その面白いと代名詞をつけたシーンを見せてくれたが、何が面白いのか全くわからなかった。元気な時の私だったら一緒に笑えていたのだろうか、ツッコミすらしていたのだろうが、アホみたいと一蹴していたのだろうか、彼なりの元気の引き出し方、励まし方だって一番私が知っているはずなのに、

幸せに思えなくてごめんなさい

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