ただただあっぱれ! 映画『侍タイムスリッパー』
これだから、映画鑑賞が好きだ。
これだから、得体の知れない未知の作品に挑戦するのが好きだ。
『侍タイムスリッパー』は、私をそう唸らせてくれる映画であった。
江戸時代の侍が、とあることをきっかけに現代にタイムスリップしてしまう。
時代劇を撮影する撮影所に舞い降りたその侍は戸惑いながらも、周囲の温かい手を借りつつ、現代で”侍としての生きる道”を模索する。
本作は、ざっくりと言えばそんな物語だ。
これだけいうと、設定や展開になんの新鮮味もないように思える。
ところが、この映画はただのタイムスリップ映画とは一味も二味も違った。
まずもって、とても面白い。
映画館で、あんなに笑いを堪えるのに必死になったのは久々であった。
私は1人だったこともあり、両手で口元を押さえて笑い声が漏れないように踏ん張っていたが、物語の序盤で最早そんなことをする必要はないのだと気がついた。
なぜなら、私以外の観客も、堪えきれずに笑い声を上げていたからだ。
そうだ。例え公共の場といえど、面白いと思ったなら笑って良いんだ。
タイムスリップした侍を世話することになった夫婦の軽快なやり取り、
度々使われる嘘みたいな効果音とズームインするカメラワーク。
ポップコーンを食べる手を止め、笑った。
「真面目に不真面目」。
本作には、この言葉がぴったりだ。
前述の通り、笑えるシーンがいくつもある。
しかし、ふざけているだけではないのが、本作のもう1つの魅力だ。
本作は、時代劇を撮影する京都の撮影所が主な舞台。
作中では、撮影スタッフ、大道具小道具スタッフ、殺陣の師匠、キャスト・・・
それぞれの道のプロが集まり、知恵と技術を集結してチーム一丸でものづくりをしている。そこには、日本の伝統文化とも言える時代劇への”熱い愛と情熱”が存在しているのだ。
それは、映画『侍タイムスリッパー』を製作した製作陣の姿そのものとも言えよう。
侍タイムスリッパーの物語を観ているはずなのに、なぜか同時に本作のスタッフたちの時代劇への敬意と愛が、スクリーンを通してビンビン伝わってくるのであった。
それもそのはずである。鑑賞後に製作の経緯を知り、合点がいった。
本作はコロナ下、資金集めに苦戦し諦めかけた安田淳一監督に、「脚本がオモロいから」とあの東映京都撮影所が救いの手を差し伸べたというのだ。
まさに、時代劇愛によって完成した映画だ。
さらに、本作の主人公・高坂新左衛門(山口馬木也)の性格は、真っ直ぐで、嘘が吐けない絵に描いたような侍そのものだ。
そんな侍が、現代で第二の人生を着実に歩まんとする姿は、意外にも心打つ。
起きた事実をなんとか受け入れながら、今の自分には何ができるのかを問う。
真面目に、実直に生きることの尊さを思い出させてくれた。
スタッフたちの想い、脚本、演出、演者の演技、裏方のプロの技術。
それら全てが揃った時に初めて起きる奇跡のようなものが、本作には確かに存在した。
他の作品を引き合いに出すのは違うかも知れないが、本作への新鮮な驚きは、映画『カメラを止めるな!』を初めて劇場で鑑賞した時に感じた衝撃に通ずるものがあった。
あっぱれ!
1997年生まれ、丑年。
幼少期から、様々な本や映像作品に浸りながら生活する。
愛読歴は小学生の時に図書館で出会った『シートン動物記』から始まる。
映画・ドラマ愛は、いつ始まったかも定かでないほど、Babyの時から親しむ。
昔から、バラエティ番組からCMに至るまで、
"画面の中で動くもの"全般に異様な興味があった。
MBTIはENFP-T。不思議なまでに、何度やっても結果は同じである。
コミュニケーションが好きで、明朗快活な性格であるが、
文章を書こうとすると何故か、Tの部分が如何なく滲み出た、暗い調子になる。(明るい文章もお任せあれ!)