野外地質調査の藪漕ぎ (やぶこぎ) 上等
私が大学生の頃は進級論文にしろ卒論にしろ、野外地質調査と言えば基本一人で山に入って調査を行っていました。もちろん、グループでの研究もあり、先輩や後輩と一緒の地質調査もありました。いずれにしろ、地質調査を行うためには地層が露出している露頭を探して山を歩くのが基本で、一人の場合はもちろん自力で、先輩や後輩と調査する場合はお互い助け合いながら道なき道をつき進んで調査していました。
日本国内の地質調査では、山の多くは植物で覆われ、落ち葉や表土などで目的とする地層が隠されてしまい見えないことが多いので、水の流れるような沢筋に沿って調査を行うのが基本です。
沢の入り口を地図と地形を見比べながら探し出し、多くの場合藪をかき分けて沢の入り口にたどり着きます。また、沢を上り詰めて尾根に出るまでの間や、大きな滝を迂回するために沢筋から離れる時にも、やはり藪をかき分けて進まなければならない場合があります。
私たちはこれを「藪漕ぎ」と呼んでいます。生えている草木の種類にもよりますが、歩きにくく、時間も体力も消耗します。特に夏場の藪漕ぎは暑いし、藪も深いし、虫も多いしでなかなかしんどいものがあります。それでも学生の時はこれが当たり前だと思って体力に任せて頑張っていました。
石油会社に就職して、研修で同僚や会社の先輩と何度か国内の地質調査を行いました。驚いたのは、研修とはいえ、会社の調査ではアルバイトで地元の方を雇い、藪漕ぎなどをしてもらうことがスタンダードとなっていたことです。会社からの指示により、役場など様々なつてを使って地質調査の同行者「藪漕ぎ」のバイトを募っていました。
もちろん、調査に集中するためだとか、安全を考えてだとか、地元に少しでも雇用面で貢献するためだとか、いろいろな背景があったのだと思います。とにかく就職したばかりの私たち若造は、バイトを使うことにも慣れていないし、人に藪を漕いでもらうなどということは思いもよらないことだったのでかなり当惑しました。
バイトは、高校生ぐらいの若者や、ややお年を召した方、女性の方もいました。もちろん皆さん仕事の内容も理解してきてくださっているので、先頭を切って藪漕ぎをしてくれますが、むしろ私たち若造のほうが落ち着かず、「交代で藪を漕ぎましょう」とか「私に藪漕ぎをやらせてください」とか「後ろからついてきてください」とか言い出す始末で、バイトの方に苦笑されていました。
学生時代にさんざん地質調査をおこなってきた私たちは「藪漕ぎ上等」だと思っていたのです。そしてバイトの方にサポートしてもらう地質調査には結局慣れませんでした。