人ごととは思えない映画「バーニング・オーシャン」
映画「バーニング・オーシャン」(原題: Deepwater Horizon)をご存じでしょうか?
2010年4月にメキシコ湾沖で発生した掘削リグ爆発・原油流出事故では、11人が行方不明となり、17人が負傷しました。流出した原油量は78万キロリットルと当時史上最悪の事故でした。この洋上掘削リグ「Deepwater Horizon」で起こった事故をモチーフにした映画が「バーニング・オーシャン」です。
事故を起こした掘削リグ「Deepwater Horizon」とはどんなリグだったのでしょうか?契約していたBP (イギリス・ロンドンに本社を置く国際石油資本) の発表によると、概要は以下の通りです。
事故の経緯や詳細は下記のページなどを参照いただくとして、石油・天然ガスの掘削現場は危険と隣り合わせだということを改めて感じます。
伊原 (2017) によると事故を引き起こした要因は以下のように複合的なもののようです。
「Deepwater Horizon」の事故は、人災の側面が強いようですが、それでなくとも自然を相手にする石油掘削は常に危険と隣り合わせです。
坑井の掘削では地下の圧力をコントロールすることが非常に重要です。そして通常は何重にも圧力を遮断するためのバリアーを用意します。
この事故の場合、掘削ビットで地層を掘り抜いた後、坑壁が崩壊したり地層流体が勝手に坑内に流入したりしないようにケーシングと呼ばれる鉄管を坑内に降ろし、孔壁とケーシングの間をセメントで固めるところまでは行ったようですが、そのセメントがうまく固まらず地層の圧力に耐えられなかったこと、また通常セメントが効いているかどうか圧力テストを行い確認しますが、テストが甘かったようです。
私も掘削現場にいるとき、ブローアウト (暴噴:地層流体が地層内の高い圧力によって坑口から吹き上がり、制御不能になること) までは至りませんでしたが、掘削中に地層流体が突然坑内に侵入してくる「キック」には何度か遭遇したことがあります。
キックはなんらかの原因により、掘削泥水の泥水柱圧力が、掘削している地層の地層流体圧力よりも低くなると起こります。キックの原因は、(1) 坑内の泥水比重が地層圧に比べて不十分な場合、(2) 揚管時に適切な補泥 (泥水の注ぎ足し) を怠った場合、(3) 揚管時に坑内の大きな圧力低下が起きた場合 (注射器を急激に引き抜くイメージ)、(4) 逸泥 (泥水が地層中に漏れ出ること: 高浸透率層で泥水比重が地層圧に比べ高すぎるときに起こりやすい)により泥水頭が低下した場合、(5) 突然不測の高圧層に遭遇した場合などがあります。
キックが起きたら、迅速にキックをコントロールするか、または坑井を抑圧しないと、ブローアウトが起こります。
私がいたある現場では、中間ケーシングをセット後、高圧層を掘削していました。掘削中は高圧層にバランスするように泥水比重を上げていました。ところが突然低圧高浸透率層に掘り込み、泥水が一気に低圧層に漏れ出て、坑内の泥水柱の高さが下がり、今度は高圧層の圧力を抑えきれなくなり、高圧層から流体が一気に坑内に侵入してきました。キックです。
キックが起こった時、ドリルフロアーでは坑内からジェット機のような音がしたとのことです。ドリラーがフロアーマンをドリルフロアーから退避させつつBOP (防噴装置) のバルブを閉めたと言っていました。幸いBOPが機能してブローアウトには至りませんでしたが現場は緊張に包まれました。
私が掘削現場で経験した安全面で最も緊張した一瞬でした。
あとでドリラーに聞いたところ、BOPを閉めるバルブは、ドリラーがドリルフロアーから緊急退避しつつ確実に閉めることができるように、人間の焦ったときの避難行動を考慮して、場所、大きさ、形、色などがデザインされていると言っていました。これも大切なことなのですね。
[参照]
伊原 賢、2017, 映画「バーニング・オーシャン」では触れられなかった「メキシコ湾油流出事故対策」から見える油田開発レジリエンス、JOGMEC
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